666文字百物語
48、ストーカーこわい
やだ、また見られてる! あんなにジロジロ、わたしを凝視してくる、眼、眼、眼……。やだ! そんなにわたしを見つめないで!
「また見られたの? 可哀想にねぇ。あんたもまだ若い年頃の娘さんだってのに」
隣の部屋の花江さんがわたしを心から憐れんでそう言った。花江さんはわたしの住む場所で一番の古株で、誰もが彼女を頼りにしている。彼女もまた頼られて悪い気はしないらしく、気持ちよくみんなの世話を焼いてくれる。
「ねぇ、その中に男はいたの? いたんなら、きっとそれ、今時流行の『ストーカー』ってやつよ!」
そう横から口出ししてくるのは、ハーフのメリーちゃん。ストーカーという言葉は流行語じゃないし、そもそもピークを迎えたのはもっと昔じゃなかったっけ? でも心配してくれる気持ちは伝わってくるから黙ってる。メリーちゃんは怒らせると怖いんだ、わたしにとってはね。
「『すとーかー』ねぇ。末恐ろしい世の中だよ。あれだろ? 男が女を覗いたりするんだろ? ……あぁ恐ろしい! わたしゃ、恐ろしくて口もきけんわ!」
「利いてるじゃない!」
メリーちゃんは笑う。けど、わたしは笑ってる場合じゃない。何とか対策を立てなくちゃ。
「……なんだ、これ?」
翌朝、生物教師が生物室に入ってすぐに見たものは、服を着た人体模型だった。よく見ると足元に数人分の足跡があった。生物教師は急に恐ろしくなって、辞表を書くことに決めた。
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