666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  47、オレオレ詐欺を出し抜け  

「ほら、ちゃんと片付けなさいよ? あんたが散らかしたんだからね!」
 あたしは、スクールカーストの頂点に君臨している。いわば、勝ち組であり、クラスの女王である。どうだ、参ったか。
 でもその女王の座を死守するのも楽じゃない。いつ、いかなる時に、誰に、この座を脅かされるか知れたものではない。共学校では、目力に体育会系の部活に入っていることは人気者の条件だ。加えてちょっと悪い先輩の後ろ盾があればなおいい。
 幸いあたしは生まれつき運動神経はよかったし、ママ譲りの長いまつげをロングタイプとボリュームタイプのマスカラを重ね塗りして、自分でもビビるだけの目力をキープしている。悪い先輩の後ろ盾はないけれど、だったら自分がちょっと悪いことをすればいいだけだ。軽いからかいくらいなら許されるだろう。なんといっても昔から人間というものは。スケープゴートを求めるものじゃないの。同じことをしてなにが悪いの?
 ターゲットにしたのは、化学部所属のいかにもな化学オタク。きっとホルマリン漬けとか見て、ニヤニヤしてるタイプ。これならいけにえにぴったりだ。
「…………」
 この時に絡んだのは、珍しく口答えしたからだ。たかが掃除当番を押し付けたくらいで、こちらを睨んでいる……つもりらしいけど、圧倒的に目力がない。
「ふん、もういい。誰か捨ててきてよ」
 こんなことが起こると、大抵は同じ男子がしりぬぐいをしてくれる。
 ……実はあたし、この都合のいい彼のことが気に入っていた。恋と呼ぶのかは知らないけど。
 その様子を、いけにえは見ていた。

 翌朝、あたしが登校すると、彼の机に仏花が添えてあった。
 いったいどういうことかとクラスメイトを問い詰めると、なんでも電車に飛び込んだとか。それを聞いた時、視線を感じた。あいつだ。
「……隙があり過ぎたんだよ」
 まるで化学の実験結果を述べるようなその口調に、あたしはまさかとは思ったけど、こわくて訊けなかった。
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