666文字百物語
46、大好き、だから、いっそ
現在は、結婚氷河期だとみんなが言う。わたしもその通りだと思う。
わたしみたいに、結婚するために文字通り必死で花嫁修業をしていても、見る眼のない男たちはスルー。家事はもちろん得意だし、茶道や華道も良家の子女のようにたしなんでいる。他にも雀の涙の給料をつぎ込んでは、あらゆる分野のスキルアップも怠らない。……こんないい女、嫁にしたいと思ってこその男だと思う。競ってわたしにプロポーズするのが当然だ。
なのに現代の男どもは軟弱だ。わたしのようなイイ女に、プロポーズどころか、告白する勇気すらない。せっかく女磨きをしているのに、相手がその気にならなきゃ話にならない。
そんな鬱屈とした思いを抱えていたわたしは、外回りに出ている時に見るからに他の男とは違った、本物のイイ男を見つけた。
身だしなみは清潔だし、話もおもしろい。会社の重役だというから給料もいい、若い、背が高い、有名大学出身……。それでいて、短所は見つからない。
この人だ! って思ったの。
だから、徹底的に攻めあるのみだ。他の女に取られちゃ、悔しすぎるもの。
デートの時には持ち合わせがないって言ったけど、ここは株を上げるチャンスだもの。わたしが支払う。お土産に美味しいとコメントしたものをわたしがプレゼント。これでまた、わたしを好きになるでしょ? さあ、プロポーズしなさい!
「――で? どうなの? 例の彼女。金持ってそう?」
「いや。あれは結婚したい願望むき出しでさ。こっちが引くんだよ。でもまあ、そこそこ楽しめるし、しばらくはキープかな」
名刺の役職も、経歴も、すべてが虚構のニセモノ。結婚したいって必死の女ほどよく引っかかる。さて、そろそろ次の獲物を探そうか。
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