666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  43、鉛筆と消しゴム  

「鉛筆と消しゴムってさ、どっちが強いのかな?」
 隣の席のクラスメイトがそんなことを僕に言ってきた。何をいきなり? そう思いつつ、僕は返事をする。
「そりゃ、消しゴムじゃないの? 鉛筆で書いたものは消しゴムで消せるんだから」
「でも、鉛筆ならこんなこともできるじゃん?」
 そう言って彼は、自分の新品の消しゴムに鉛筆を刺した。消しゴムは鉛筆に貫かれて、穴があいた。
「そんなことしちゃ、消しゴムが可哀想だよ!」
「こんなもんじゃないぜ、鉛筆の力は! 鉛筆は強いんだ!」
 言いながら、またも穴をあけていく。ひとつ、ふたつ、みっつ……。無数の穴が消しゴムにできて、表面がボコボコになってしまった。
「あーあ……なんで大事にしないの?」
「だって、たかが消しゴムだぞ? 五十円もあれば買えるんだぞ?」
「それはそうだけどさ。物は大事にしなきゃ」
 どうなっても知らないよ。


 その夜、僕はたしかに自分の部屋で寝ていたはずなのに、なぜか学校にいた。そこは教室で、昼間お喋りをした彼も一緒にいた。
「なんだよこれ?」
「さぁ?」
 すると僕たちの身長くらいに大きくなった鉛筆と消しゴムが見えた。最初は着ぐるみかと思ったけれど、それは本物の鉛筆と消しゴムだった。
「よくも私をこんなにしてくれましたね?」
 消しゴムには無数の穴が開いていた。それは昼間彼がつけたものだろう。
「それからそっちのおまえ。おまえは消しゴムの方が強いと言ったな? 俺の力を舐めるなよ!」
 鉛筆は僕を見て、次の瞬間とんがった方を僕の方に向けて突っ込んでくる。
「うわあぁぁぁ!」
「あなたは私が存在を消してあげるわ」
 消しゴムはもうひとりの彼に近づいていく。
「うわあぁぁぁ!」
 僕は鉛筆に貫かれ、彼は消しゴムによって存在自体を『消された』のだと、自分たちの悲鳴がこだまする中で思った。
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