666文字百物語

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  39、○○デビュー 男子編  

 僕は、中学時代はひたすら地味だった。
 休んでいても「あれ? 昨日いなかったっけ?」なんて言われ、担任教師ですら僕の出席を取り忘れる。だから、こんな地味な僕だから、好きな女子に告白しようとしても無理だった。僕にだって卒業式で告白という夢があったものの、僕とは真逆に派手な彼女に告白だなんて無理だった。
 だから僕は高校デビューをしようと誓った。
 誰も知り合いなんかいない難関校をパスして、そこで新たな僕に生まれ変わるんだ。
 それなら一人称も地味な『僕』じゃなくて『おれ』にして、部活もそれまでのパソコン部から活発なバスケ部に入ろう。……うん、入学前から新たな僕のビジョンが浮かぶ。高校生になった僕はクラスの人気者で、派手なグループに入って、女子にもキャーキャー言われて。素晴らしいじゃないか。


 しかし、現実はそう甘くなかった。
 慣れない『おれ』という一人称はなかなか出てこないし、バスケ部は先輩のシゴキが凄くて逃げるように退部した。……こんなはずじゃなかったのに。もちろん、女子の「カッコいい!」という黄色い声もない。
 こんなはずじゃなかった。高校生になったら、もっと素敵な人生が待っているはずだったのに。
 なのに今の僕ときたら、屋上で隠れるように弁当を食べてる。下を窺うと、こりゃあ間違いなく死ぬ高さだ。そうだ、まだ誰も死の世界なんて知らないじゃないか。誰もいない世界なら、僕はきっとオンリーワンになれる。
 僕は屋上から身をひるがえして飛び降りる。地面が迫ってくる。でも、これで僕はまた誰も知らない場所に行ける。
 さようなら、人生。
 僕は死人デビューするよ。そこでは僕はきっと人気者になれるから。
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