666文字百物語

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  38、色白は七難隠す  

 もう五月、わたしはこの時期が嫌いだ。でももっと嫌いなのは真夏の最中だ。理由は簡単。わたしの自慢の白い肌が紫外線にさらされるから。わたしの天敵はこの時期にさんさんと降り注ぐ紫外線だ。
 雪国出身の両親の間に生まれたわたしは、幼い頃から白雪姫のような白い肌を周囲に褒められ、よく羨ましがられてきた。『色白は七難隠す』って言葉もある通り、わたしは今にして思うと性格が悪かったかな?
 なんて思うことをしでかしても、周囲は甘かった。それはわたしの肌が雪のように白かったからに違いない。昔は色黒、いわゆる『ガングロ』というやつが流行ったらしいけど、自分から元の肌を焼くなんて、わたしからしてみれば正気を疑わずにはいられない。真っ黒な肌に白いくちびるだなんて、目も当てられないじゃない。
 五月に入って、暑さも増して来たら、わたしはちゃんと日焼け止めを塗って、更に日傘も兼用する。もちろん白魚の手が日焼けしないよう、UVカットの手袋も外せない。……校則? 知ったこっちゃないわ。

 そんなわたしだから、当然、色白の秘訣を聞きたがる人は多い。色白はわたしだけでいい。だから適当にはぐらかす。でもね、ある日、秋田から転校生が来たの。その時のわたしの驚きときたら。
「○○です」
 そんなそっけない挨拶も欠点をして映らないくらい魅力的な輝く白い肌。わたしよりも白い。わたしはこれまで感じた事のないくらいの屈辱を味わった。あんな肌、わたしは持ってない。

「○○さん!」
 わたしはできる限り愛想よく話しかける。目的を悟られてはダメ。慎重にやらなくちゃ。
「何?」
「あのね、お願いがあるの」
 わたしは刃を出したカッターで、彼女の顔を切り裂いた。白い肌に、赤い線が次々に増えていき、とってもよく映える。憎いくらいに。
「やめて! なにするの?」
 彼女の声などわたしは無視して、ただひたすら切り裂いていく。白かった顔は真っ赤に染まった。次の流行は『ガンあか』なんてありかもね。
 わたしはそんなくだらないことを考えながら、作業を続けていた。
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