666文字百物語

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  37、初恋の人はK   

「彼がね、もうカッコよかったの! 試合中の男子ってさ、なんであんなにカッコイイんだろうね!」
「わかるわかる! 授業中は全然パッとしないのにさ、輝いて見えるよね! 三割増しだよ!」
 休み時間ともなると、女子たちは恋バナに花を咲かせる。……くだらない、まったくもってくだらないし、理解できない。
 現実の中学生男子なんて、わたしはいや。だっていかにも思春期ですって感じの未熟さがいや。もっと成熟した、大人の魅力のある人がいいじゃない。中学生なんて、ただのガキ、お子様じゃない。
 ……そんな恋愛の話をするわたしが、恋をしたことがないわけはない。ちゃんと素敵な人に出会った。本の中で。
 K。彼こそがわたしの好きな人、わたしの初恋の人。
 夏目漱石ってとっつきにくいかもしれないけど、「こころ」は名作。ホモ小説として読まれたりするけど、わたしはプラトニックラブとはこんなものだとこの本で知った。好きな人のため、友情のために死ぬなんて、なんて素敵な人なんだろう。
 本名が気にならないわけじゃないけど、別にいいじゃない。名前なんて些細なこと。そうよ、どうでもいいことだわ。
 わたしはKに好かれている。だって、わたしは静って名前。

「静さんったら、またトリップしてるよ……」
「そんなに私のために争わないで的な状況が好きなのかな?」
 やめて。わたしはK以外にそう呼ばれたくないの。もしも「私」じゃなくて、Kがプロポーズしていたらって思うとね、妄想が止まらなくなるの……。
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