666文字百物語

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  33、百物語  

 夏は嫌い、大っ嫌い! 太陽が爆発すればいいと思う。そのくらい嫌い。
 暑いのは嫌いだし、夏服は透けるから嫌だし、プールは憂鬱だし、虫は発生するし(特に蚊とハエがうるさい)、海より山派だし。レジャーの季節だなんてキャンプに行く連中の気が知れない。あたしらはまだ高校生だし、未成年だけでの外出先は限られてる。街に繰り出せば危ない男がうろついてるって先生が口を酸っぱくして言う。子供じゃないんだから。だから夏は嫌い。どちらかといえば冬がずっと続けばいいと思う。寒さなら重ね着でカバーできるし。
 ――と、いうようなことを友達と話していた。あたしの周りの連中ときたら、夏だからって開放的になり過ぎ。傍から見ているこっちが恥ずかしくなるくらい。何をそんなにはしゃいじゃってるの? って感じ。
「――とか言ってさ、実は怪談の時期だから嫌いなんでしょ? 夏といえばホラーだよ。百物語しようよ!」
「べっ、別に怖くないし!」
「じゃ、一人五話持ちよって、百物語やろう! 百本目のろうそくの火が消えた時に、何かが起こるんだよね。楽しみー!」
 ……なんてこった。最悪の展開だ。あたしは怖い話は苦手なのだ。しかもいつも気が強いって思われてるから断れないし。
「でもさ、実際に百話目を話した人の身に何かが起こるらしいよ?」
「え? ホントに? ますます楽しそうじゃん!」
 友達は大盛り上がり。嫌だよ、あたしは。何かって、そりゃあ、あたしが死霊だってばれちゃうじゃないの。かつての百番目の話し手だったあたしが、もう死んでるって。
「やめようよ」
 あたし、まだ成仏なんかしたくないんだからさ!
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