666文字百物語

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  31、インスタント  

 今時の若者は、なんでもインスタントだ。ジャンクだ、大量消費だ。
 あたしの子供の頃はそんなことはなかったというのに、何とも嘆かわしい話だ。物を大事にしない連中が増えたのは、いったいなんのせい? 誰のせい? やっぱり政治家が悪いのかね? そうだね、そうに違いない。
「でもですね、朝は忙しいんですってば。わたしもパートがありますし、彼のお弁当だって、いちから作ってちゃ遅刻ですし……」
「やかましい。昔の若者はそのくらい当たり前だったんですよ。時間制限があるんなら、その分早起きすればいいじゃない。あたしだってそのくらいはしてましたよ。……それなのに、冷凍食品だなんだって、情けないとは思わないのかい?」
「だって、便利なんですもの。……一度使ってみては? そうすれば良さがわかりますって」
 「どうしても」、と嫁がうるさく勧めてくるので、仕方がなくインスタントなんちゃらの説明書を読む。食品にしては箱が大きい。これにお湯を注いで、三分待てば――
「やぁ! 僕は寂しい老人専門の介護士だよ! おじいちゃん、食事を食べる? それともお風呂?」
 三分後に箱から出てきたのは、息子そっくりのかわいい少年の姿をしたロボット。こんなものまでインスタントになったとは。たしかに便利かもしれないね。特にあたしみたいに暇を持て余した老人には。


「義父さんも、やっとインスタントの魅力に気づいたみたい。やっぱり便利が一番よね」
「でも高かったんだろ?」
「だってインスタントだもの。スーパーの特売に買いだめしとくわ」
 二十二世紀の日常には、もはやロボットは欠かせない。更にはインスタントでも利用できるロボット技術の確立により。人類は更に便利な生活になっていたのだった。
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