666文字百物語

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  145、それを言ってはおしまいだ Pixivでは「359」  

 ゼイゼイと息を切らせて、ただひたすらに走る。もう少しでゴールだ。
 六月の強くなってきた日差しの中で走るのは、正直に言えばキツイ。でも、自分で決めたことだから。誰に誘われたわけでもなく、自分の意志で決めたことだから、耐えられる。
「だいぶタイムも良くなったじゃない!」
 ゴールでわたしを待っているのは、同じマラソン部の同級生。彼女も女子マラソン部の仲間で、割と仲がいい方だ。いつも彼女とタイムの測りあいをしている。今のところは彼女ばかり良いタイムを出していて、わたしは敗北感を味わっている。
「ありがとう。次、走る?」
「あたしはもう今日のノルマはこなしたし。やめとく。それと、今日の当番はあなただよ」
「うん」
 わたしたちマラソン部は、その日使った体操服を交代で洗濯している。この方が各家庭に持ち帰るより面倒じゃない。
「終わるまで図書室に行ってるね。終わったら来て」
「うん」
 マラソン部の同級生は彼女しかいない。友達は大事にしなきゃ。チームワークが必要な時もあるし。わたしは洗濯機のある場所に向かう。


「あの子って、本当に鈍感なのよね。見てるこっちがイライラするわ」
 あたしは図書委員の親友に愚痴っていた。同じ部活の仲間だと思われてる、どんくさいあの子の愚痴だ。
 タイムが伸びないのは、あたしが細工をしているからだとバレバレのはずなのに、全然気づかない。まったく、鈍いんだから。そんなんだからイジメられるのに。
「そんなこと言うもんじゃないよ」
 親友は、そう言いながらもどこか楽しげだ。


「あの子もさ、私の事、親友だと思ってるらしいよ?」
「それで自分は鋭いって思ってるんでしょ?」
 私は事の仕組みを適当なクラスメイトに話した。笑い話として。結局この世で一番厄介なのって幽霊でも何でもない、人間じゃないかな。
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