666文字百物語

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  144、鏡をのぞけば Pixivでは「264」  

 鏡をのぞくのは、好き。
 だって自分の綺麗な顔が好きなだけ見れるから。
 わたしは自分の顔が大好き。わたし以上にかわいい顔の子なんていないんじゃないかと思う。実際に、中学時代は学年一の美少女として男子の注目の的で、女子の嫉妬の的だった。わたしはそれだけの美少女。神に愛された存在。だから、わたしは毎日毎朝隙なくメイクする。それが美少女であるわたしに課せられた義務。男子に夢を見せてあげなきゃ。女子にはわたしという嫉妬をぶつける相手を与えてあげなきゃ。ブスが可哀想だわ。
 ……だけどね、わたし、最近は鏡をのぞくのが憂鬱なの。高校に進学したのはいい。学力もそこそこ、男子もそれなりにカッコいい子がいる。それはいいの。でもね、『かわいい』わたしに対して、『キレイな』女がいる。その子は全然自分の美貌に無頓着で、そこがいいって陰で男子たちが言ってたの。注目されるのはわたしの役。その役はわたしのもの、私だけのものだ。誰にも渡さないし、誰にも許さない。わたしはママの化粧品を塗り込む、念入りに。高価な化粧品というだけで効くような気がするから不思議だ。

 次の日、わたしはいつもの通り、鏡をのぞいた。うん、昨日よりもかわいいわたし。イケてるわたし。わたしは自分だーい好き。モテるのはもっと好き。……あれ? 鏡が曇ってるのかな? わたしのかわいい顔が歪んで見える。いえ、錯覚なんかじゃない。間違いなく歪んでる! なんで? なんで? なんで?
 ママの化粧品、成分に危険な薬品が使われていたという事実がニュースで報道されたのは、その日の朝だった。
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