666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  143、だから見ないでと言ったのに Pixivでは「218」  

 自慢だが、俺の妻は最高だ。顔は二重の眼に、小さな赤い唇、うっすらと染まった頬が愛らしい。スタイルも抜群で、ボンキュボン! をここまで体現している女はそうはいまい。
 俺はいつも妻の写真を持ち歩き、同僚に自慢する。その結果、俺は愛妻家という評価がついて回った。
「本当に、いつもきれいな奥さんですね」
 同僚にそう言われるたびに、俺はいい気分になった。そうだ、俺の妻は最高なんだ。それに比べておまえの妻は見れたもんじゃないな。肌は汚いし、眉はぼさぼさだし、腹は出てるし。そんなことを妻に話すたびに、「そんなことを言っちゃダメよ」なんて咎めてくる。本当のことを言ってなにが悪い?

 俺の妻はいつも俺よりも遅く寝て、いつも俺よりも早く起きる。まさしく、妻の鏡だ。そんな歌詞の歌が昔あったっけな。でも妻はいつも妙なことを言う。明かりを消した後で、「決して私の顔を見てはなりませんよ?」なんて脅すように言う。そんなことを言われては、気になるじゃないか。
 ある日、珍しく早起きした俺は、妻の寝顔を眺めようとそっと妻に寄り添った。が、そこに寝ていたのは俺の知っている妻ではなかった。
 あれだけ細いウエストは、肉が容易につかめる。胸もペタンコで、谷間も何もない。尻はやけにでかい。足首はそこがフトモモかと思うほどだ。更にひどいのは、顔。ひどい隈の跡のある目元はうりざね顔で、眼はだるそうに肉が垂れ下がり、顔色は死人のよう。くちびるも紫色だ。
 そこまで観察し終えたところで、妻が目覚めたらしい。
「……見ましたね?」
 醜いその顔で凄んでくる妻は、それだけで迫力があった。これは見ていないと答えても結果は同じだろう。
「私のこの姿を見て、どう思う?」
 妻はかたわらの目覚まし時計をその太い腕で粉砕しながら訊いてきた。俺は本当のことを言うべきか、それとも嘘をつくべきか、大いに迷いたかった。妻が俺に迫ってきた。
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