666文字百物語

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  142、春眠暁を覚えず Pixivでは「208」  

 春は、眠くなる。なぜだか理屈では説明できないけれど、眠くさせる季節だと思う。でも僕は春は嫌いじゃない。なにかが始まるような気がするし、桜は綺麗だし、昼寝をするととっても気持ちがいいんだ。こう思うのは僕だけじゃないはず。
 それに、春って食事が美味しいんだ。実りの秋も嫌いじゃないけど、春の方がぽかぽかとして気持ちがいい。寝ている時も身体が冷える心配もないし。あーずっと春が続かないかな? 
「春眠暁を覚えず、だってさ。昔の人も上手いこと言ったもんだよね」
「春って眠くなるんだよね。それで授業中に怒られるまでがワンセット!」
 ほら、女の子たちも言ってる。僕の言ってること、間違ってないでしょ。女の子は僕に気づくと、にっこり笑った。
「相変わらず元気だね。そんなに春が好きなのかな?」
 うん、大好きさ。気持ちがいいし、ご飯も美味しいし。なによりもねずみなんか探さなくてもいいからね。あんなもの、まずくて食べてられないよ。
「ちょっと、その猫って病気持ってるんじゃないの? そんなに怪我だらけだし――」
 もう一人の女の子が余計なことを言う。失礼な。僕は猫と言っても特別なんだ。
「あー大丈夫。この子、化け猫だから。もう死んでるからさ、そういう心配はいらないよ」
 女の子はにっこり笑って、僕に美味しい元飼い主の死体身体の一部を分け与えたのだった。うん、いい感じに腐ってて、美味しいよ。
 僕はお礼も兼ねて、女の子に向かって「にゃー」と鳴いた。
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