666文字百物語
141、美の求道者 Pixivでは「205」
わたくし、自分の美しさにはちょっと自信がありますの。いいえ、ちょっとじゃないわね、とても自信があるわ。周囲の同年代が顔じゅう皺だらけになっても、わたくしはぴんと張った肌をしていて、周囲の者たちはまるで乙女のようだと褒めてくれるの。ふふふ……これもあの美容法の成果かしら?
あなたも綺麗になりたいでしょ? 綺麗でいたいでしょ? ずっと美しいって言われたいでしょ?
だったら簡単よ。わたくしの伝授する通りにすればいいわ。方法はとっても簡単。若い娘の血を浴びればいいの。たっぷりと、搾りたてのものをたぁくさんね。それだけで肌は若さを保っていられるわ。鏡を見るのが楽しくなるわ。
それでもね、わたくしは寂しいの。「美しい」と言ってくれる相手がいないんだもの。侍女ならば何人も言ってくれるけれども、やはり若い男に言われたいわ。それがわたくしの悩み、不満なの。
どんなに肌が綺麗でも、どんなに美しく着飾っても、どんなに化粧に時間をかけても、褒めてくれる相手はいない。わたくしは自分の美しさを証明する手段は、鏡しかないの。なんて寂しい。
それでもわたくしは、遠くで頑張る夫を応援しているわ。頑張れば頑張るだけ、早く帰ってきてくれる。そしてわたくしを見てくれる。褒めてくれる。
だから、再び会える日まで、肌の手入れを欠かさないの。
「エリザベート様、今日もあんな虚言を……」
「無理もないよ。死ぬまでここに閉じ込められるんだから。でも鏡がないのは幸いだよ。あの皺だらけの肌を見たら、エリザベート様は狂ってしまうよ」
今日もひとり壁に向かってブツブツ呟く女主人のなれの果てを見て、使用人たちは彼女に気づかれないよう小声で話した
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