666文字百物語
137、イケメン嫌い Pixivでは「449」
「――この世で結ばれないのなら、せめて来世で!」
お風呂を上がると、お母さんはドラマを観ていた。最近ブームだという海外のドラマ。テレビにはイケメン俳優がいかにも寂しそうな顔を作ってこっちを見ている。その眼つきがまるで見ているあたしたちを捕えているような気がするのは、あたしの気のせいだろうか。
「あら、上がったの? じゃあわたしも入ろうかしらね」
お母さんは珍しいことに素直にお風呂場に向かう。さては、ちょうどいいタイミングでドラマが終わったからだろう。このチャンネルにはいつもお母さんが好きな映画が放送されるようになっている。本人がパートで稼いだお金で加入してるから、お父さんも文句の言いようがない。それは別にいい。知ったことじゃないんだし。
問題は、お母さんがあたしにその趣味を押し付けてくるところだ。あたしは小説も恋愛ものは苦手だし、ドラマや映画はもっと苦手。小説の方が高尚とかいうつもりはないけど、ただじっとしてるのが性に合わないんだ。
テレビ画面の向こうでは、相もかわらずイケメンが入れ替わり立ち代わり、画面に映る。誰も彼もが同じ顔に見えて、もう辟易だ。
と、その中のひとりがあたしに向けて手を伸ばした、ように見えた。そのドラマはシンデレラの実写版。王子様がガラスの靴をあたしの足に嵌めようとしている、ように見える。
「ちょっと、! 何してるのよ!」
バスタオルを巻いたお母さんが、テレビに向けて怒鳴りつけた。……と思ったら、その怒りの矛先はあたしに向けてだった。
「このイケメンたちはみんなわたしのものなの! 娘だろうが渡さないわ!」
そういう声の鋭さから、本音だとわかる。ガラスの靴が映った場所に自分の足を当ててみせるお母さん。……イケメンって本当に罪作り。だから嫌いなのよね。
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