666文字百物語

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  135、最高のライバル Pixivでは「443」  

 どんどんどん、ボールがバウンドする音が体育館中に響く。もうすぐで、あたしの学生生活を賭けた夏は終わる。
 バスケットに捧げてきた、あたしの青春が。友達が次々に彼氏を作ってはデートに出かけるのをしり目に、あたしとあの子だけは毎日欠かさずに練習をしてきた。一緒に汗を流して、リングにボールが入ればいちいち大喜びしてきた。同じエースで、互いにライバルだって認め合ってた。
『どっちが選手に選ばれても、文句はないよね』
 あたしたちはお互いにそう言い合ってた。実際、エースはあたしか彼女で決まりだろう。それだけ他の子たちとは実力の差があったから。
 でも彼女とあたしはいつもどっちが上かなんて決められないくらいに拮抗してた。だから、どっちが選手に選ばれても文句はないし、もしあたしがエースにならなくても、彼女さえいれば勝てると確信していた。
 体育館の外では、うるさいくらいの蝉の鳴き声。タオルで汗を拭きながら、蝉の短い生涯に自分を重ねてみる。
 選手に選ばれても、それは夏だけの話。夏が終わったら、あたしたちは進学に向けて大好きなバスケともバイバイだ。その点は蝉と似たようなものだ。
「なに黄昏てんの? らしくないな」
「うるさいよ。あたしだって、考えることもあるの!」
 あたしの最高のライバル。クラスが違うし、教室ではあったことはないけど、きっと彼女は高校に行っても人気者なんだと思う。あたしはバスケしか取り柄がないから。そう思った時、勢いよく蝉が鳴いた。
 あたしは一瞬眩暈を覚えた。


「それじゃ、あなたが選手、エースよ」
 目を覚ましたあたしは、選手を選ぶ時にはすっかり意識を取り戻していた。でも、あの子がいない。
「ねぇ、あの子は? あたしといつも一緒にいた――」
 するとコーチは青ざめた顔をしたけれど、それ以上の説明はなかった。でも何かを言いかけていたのをあたしは見逃さなかった。……でも、たぶん、聞かない方がいいことなんだろう。最高のライバルと呼べる相手がいた、その事実だけでいいじゃない。
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