666文字百物語
132、あるお姫様の受難 Pixiv「323」
お母様は、きっとわたしが嫌いなのよね。
わたしが生まれるまでは、お父様の愛を独り占めにしていたのに、わたしが生まれてからは、お父様はわたしばかり溺愛してる。どんなに幼くてもね、娘にはわかるのよ。このひとはわたしをどんな目で見ているのかってことくらい。男の子は鈍感だけど、女の子ってそういうの、敏感だから。
それで、お母様はいつもわたしを殺そうとするのよね。今日はスープに毒が浮いていたわ。わたしも毒は詳しいからね、そういうのわかっちゃうの。残念でした。
「白雪、おまえに新しいドレスを用意させたのよ。試着してみない? きっとよく似合うわ」
なんの裏もなさそうに、お母様は笑う。その笑顔が嘘だってことも見抜けないほど、わたしが間抜けだと思うの? 馬鹿にしてるの?
「いいえ、それよりもお母様こそドレスを深長なさったら? 裾がほつれてましてよ」
食事の時間に笑い合うわたしたちは、さぞかし仲睦まじい母娘に映るのだろう。でも内実はドロドロだ。
――殺される前に、殺さなきゃ。
わたしはね、もうこんな作り物の幸せな物語になんて飽きちゃったの。だから、終わりにしたいの。
「あの子、まだあの時の毒が抜けていないみたい。高熱を出した時に見た幻覚が後を引いているみたい」
「大丈夫だと主治医は言っていたが? そんなに重症なのか?」
「だって、人形に向かってお母様なんて話しかけるのよ? 幻覚を見ているに違いないわ。今日だって、人形に毒を飲ませてたし。もう三十にもなるのに、心は少女のままなのよ」
娘を心配する母親は、ひどく疲れた顔をしていた。娘は十歳の頃からずっと幻の中を生きているのだ。
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