666文字百物語
129、真剣じゃなきゃ意味がない Pixivでは「402」
「僕と結婚してください!」
それは彼にとっては勇気のいる言葉だったはずだった。小心者の彼が、一生懸命絞り出した言葉。女性の扱いになど慣れていない彼が、必死になって考えて、考えて、考え抜いた結果の言葉だった。それだけ彼は彼女が好きだった。惹かれていた。
「わたしはね、年収が二千万はないといやなの。あなたってさ、そこまでの器じゃないでしょ? だから、ごめんなさい!」
予想だにしなかった答えだった。彼女とは付き合いも長い。てっきり了承してくれるものだと思っていた。式は六月、今月にどうだろう。女性はきっとその手の縁起を担ぐとばかり思っていた。それなのに、そこにいくまでもなく断られるとは。
「……でも、僕は身長が高いよ? この歳でこの高さっていうのは滅多にいないんじゃないかな?」
すると彼女は鼻で笑う。
「身長がなに? そんなのはシークレットシューズでも履けばいいじゃない。そんなものよりもわたしはお金持ちが好き。あんたみたいなのはお断りなの」
「そんな……!」
幼い頃は一もなく二もなく「はい」と言ってくれたのに。何が彼女を変えたのだろう? まさか、他の男? そうに違いない。
「……相変わらずあの二人は熱が入ってるわよね、たかがおままごとで」
「なんでも、大きくなった時に失敗しないように練習してるんですって。今時の子ってませてるわよね」
「でもあの男の子、あの子の好きな子を刺しちゃうとか、行きすぎでしょ」
小学生でも、恋の気持ちは本気。少女は気まぐれだが、少年はしごく真面目なのだ。
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