666文字百物語
128、トクベツ Pixivでは「315」
わたしは、トクベツなんだ。だから、家族もトクベツじゃなきゃいけない。それがトクベツということだ。
「ねぇ、いいでしょ?」
「一度行ったらきかないんだよな。……僕も無駄話は嫌だし、どうせこれ以上話してても平行線だろ?」
「いいってこと?」
「そう聞こえなかった?」
ママは嬉しそうに笑う。そしてわたしに笑いかける。
「ずっとここにいていいんだからね? もうご飯の心配もしなくていいし、きょうだいだっているわ。もう寂しくないの。だって、あなたはトクベツだもの」
当然だよ。わたしはトクベツ。トクベツなんだから。
きょうだいだとママが指差したのは、どいつもこいつもパッとしない連中だ。目に覇気がない、オーラもない。ただの無気力。わたしのきょうだいにしてはトクベツ感に欠ける。でも、ま、わたしが引き立つためならしょうがないか。たまには妥協もしてあげるわ。その代わり、わたしの食事はちゃんとトクベツにしてよね。
「君も、今日から僕らのきょうだい?」
「変わってるね。なんかフツーじゃないよ」
興味津々といった様子でわたしを無遠慮に見る『きょうだい』。そうよ、平々凡々としたあんたたちでもわかるでしょ? わたしはトクベツなの。前のママはいつもそう言ってたわ。わたしがトクベツだから、トクベツ扱いしてきたんだって。お別れの時にはありがとうって言ってたわ。
「さぁ、新しい子が来たお祝いよ。奮発したのよ」
「おいおい、最初から特別扱いってよくないんじゃないか?」
パパが新聞紙を見ながら余計なことを言う。見た目には平和そのもののこの家庭。でもね、わたしにはわかるのよ。もうこの一家はおしまいだって。だからわたしが来たの。わたしの金と銀の眼が、パパとママを見る。二人とも包丁とゴルフクラブと手に持つ。
「――猫がうるさかった?」
「はい。昨日も新しい子を拾ってきたとかって。金目銀目っていう珍しい子。幸運を運んできてくれる特別な猫だとか言ってましたね」
夫婦の遺体は、数か所の刺し傷と殴った跡がごちゃ混ぜになっていた。
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