666文字百物語

モドル | ススム | モクジ

  127、たとえ我儘だと言われても Pixivでは「298」  

 弟が生まれた時は、素直に嬉しかった。
 いつも一人っ子はわがままな甘えん坊だと周囲の大人から言われて、自分のことも自分でできないんだと、甘やかされているんだとみなされていた。それがひどく不満で、毎日毎日、飽きることなく両親に頼んでいた。
「男でも女でも、どっちでもいいから、とにかくきょうだいが欲しい! きょうだいがいないなら家出してやるんだから!」
 あの時にして思えば、幼い子供が一人で家出などしてどうなるのか。そんなことも考えられないくらい、わたしは必死だった。きょうだいさえいれば、わたしは人前でだけでも面倒を見ていれば「いい子」と言われて褒められるのだと思っていた。
 その弟は、わたしよりも遥かに整った顔立ちをしていて、まるで女の子のようだった。
 女物のわたしのおさがりを着せられても大人しくしているから扱いやすかったし、甘えるのも抜群に上手くて、両親の関心をわたしから奪い取った。それまではわたしだけに注がれていた無償の愛情は、今や弟だけのものとなった。
 あれだけ欲しかったきょうだいは、今やわたしにとって邪魔者だった。両親に愛されるのもわたしだけでいい。誰か、弟を殺してはくれないだろうか。わたしはいつしかそんなことばかり考えるようになっていた。
 そんな折、小学生になった弟が下校中に誘拐されるという事件が発生した。
 両親は半狂乱で、警察に通報するか否かを言い合っていた。わたしはその様子を黙って見ていた。


「本当に、こんなにもらっていいの?」
 相手はわたしよりも大人だったけど、大人を相手にするようにわたしに接してくれた。
「はい。あの子はあなたたちの好きにしてください」
 わたしは両親の用意した身代金を運ぶ係りを命じられていた。弟を誘拐した犯人は、わたしが雇ったなんて微塵も思っていないのだろう。相手はいやらしい笑い方をしたけど、悪いのは両親の注目を浴びるあの子だ。
 久しぶりに一人っ子になれて、わたしは気分がスッキリした。
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