６６６文字百物語

　　１２６、おまえがそれを言うのか？ Pixivでは「２５９」　　

　よくさ、テレビで「アーモンド臭！　これは青酸カリ！」なんて探偵が得意げに言うシーンがあるじゃない？　実際はあり得ないと思わない？　……あ、僕？　僕は探偵の宮下茜です。実際に職業として探偵をしているものの意見として言わせてもらったというわけ。ね？　探偵が言うんなら納得もするでしょ？
　そもそもさ、アーモンド臭なんて特徴があるんならさ、コーヒーなり紅茶なり、その辺の水なんかに入れられた時点で匂いがするはずなんだからさ、わかるはずじゃん？　なのになんでフィクションの世界だったらあんなにあっさり引っ掛かるかな？　いつもワンパターンで少し飽きたよ。僕の好きなミステリでもそうなんだよね。いつまで経っても青酸カリはヒ素と並んで、毒物の王様として君臨してる。ヒ素だって、皮膚の変質ですぐにヒ素のせいだってわかるのに、まだ使われてしね。一体いつになったら新作の毒が出るミステリが読めるんだろう。バレバレの展開なんか誰も望んでないってのにね。
　話してたら喉が渇いてきちゃったよ。毒薬のことは他にもベラドンナとかトリカブトとかもあるけどさ、最近は少ないよね。それとも僕の見落としかな？　あ、コーヒー持ってきてくれたの？　ありがとう。しゃべちっぱなしだったからちょうど喉が渇いてたんだよ。……うっ！　これは――この匂いは……、アーモンド臭……。