666文字百物語
125、若葉の頃で Pixivでは「310」
なんでだろう。なんであんな地味な子に、僕はこんなに惹かれるんだろう。
中学生というのは、大人が考える以上に難しい年頃だ。子供と大人の中間点、小学生ならば子供らしく振る舞うことが許されるけど、中学に入った途端、それは通用しなくなる。『オトナ』の振る舞いが要求されるのだ、急に。
特に僕らのような男子は、身長も伸びるし、これまでは何とも思わなかった女子の眼を意識したりする。モテる男は尊敬されるし、彼女がいればそれだけで一目置かれる。だから男子はみんな女子の眼を引こうと必死になる。美少女をものにしたくなるし、そんな女子と付き合ってるってだけで自分のステータスになる。
そのはずなのに、僕はなぜ、あんな自分と似たタイプの地味な子がたまらなく気になるんだろうか。目立つグループにいるわけじゃない、スポーツも勉強もできるわけじゃないし、もちろん美少女とは言い難い。とても地味な子だし、友達も少なそうだ。授業中に当てられても、答えれれずにもごもごしてる。でも、校則は破らない。いい所といえばそれだけだ。でも気になってしまう、どうしても。
中学生というのは微妙な年頃。でも、だからこそいいのよ。
私は数十年ぶりに母校にいる。ここは落ち着く。大人の汚い世界じゃない、思春期のキラキラした空間だから。私は自分の旦那の若い頃を見て、思わず好意を抱いた。なんだ、本人が言うほど素敵じゃないじゃない。昔は自由にタイムトラベルなんかできなかったしね。私が彼の若い頃を見るチャンスが出来たのは幸運だ。
どうやら私は死ぬらしいと医師から宣告された。でも今の時代、最期に人工的に走馬灯を見せてくれるなんてサービスが出来て、私は過去を体験している。あ、今の彼、なかなか好みだ。
きっと私の肉体はもう死んでいるんだろうけど、こうしてずっとキレイな場所にいられるのなら、それでいい。心臓が止まるその瞬間まで、私は女子中学生でいられるのだ。そんな最期なら、それはそれでいいじゃない。
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