666文字百物語

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  123、神様の本音 Pixivでは「383」  

 あたしは、彼を愛してる。だって、彼はあたしの半身だから。彼の肋骨からあたしは作られたから。だから、一緒にいられるだけで満足なの。
「……本当に? ただ誰か一人と一緒にいるだけなんてさ、つまらないと思わないかい? 僕がとっておきの娯楽を教えてあげるよ。あぁ、そもそも君は『娯楽』がなんなのかもしらなかったね」
 やけに細長くて、つやつやした生き物があたしの足を伝ってきた。なんといえばいいのだろう、この感覚。ただ単純に気持ち悪いとでも言うべきか。
「ゴラク? なにそれ?」
「知りたいかい? 知りたいだろう? 神様はね、君たちが余計な知恵をつけるのを嫌がってるんだよ。なんでだと思う?」
「あたしは知らないわよ」
「じゃあわかるようにしてあげるよ。ほら、この赤いものを食べるんだ。これは知恵の実といってね、何でもわかるようになるのさ。もう誰も、君を無知だって笑わないよ。彼もますます君を気に入るはずだ」
 あたしはそこにあった、赤い果実を一口齧った。食べた事のない、でもとっても甘くておいしい。あ、これはリンゴというんだわ。色々な知識が頭の中に入ってくる。あたしの足にまとわりつくこの生き物は、ヘビだわ。
「……食べたね? 食べちゃったね? おめでとう、これで君も楽園から追放だ!」
 禁じられていたんだ、これを食べることを。でも、なんでそんなことを言うの? 言われなきゃ気にならないのに。


「あーあ、食べちゃったか……。最近の若い娘の好奇心はどうにかならないもんかな。パンドラもやっちゃいそうだし」
 神様は面倒くさそうに腹を掻く。実際、人類を作るという仕事は面倒だ、今すぐ放棄したい。でも、そんなわけにもいかない。そんな鬱憤を晴らすには、八つ当たりが一番だ。
「とりあえず、彼女と相手は楽園追放ってことで。あーめんどくさいなぁ。楽園の外に流刑地も作らなきゃな。あ―ホント、めんどくさい!」
 ……案外、神という存在もけっこうアバウトだったりするのかもしれない。
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