666文字百物語
122、王妃様の悩み Pixivでは「340」
まったく、ついてない。
わたしは一国の王の元に嫁いだ。つまり王妃である。それはいい、絶大な権力を持っているということなのだから。しかし、ついていないのは夫のことだ。最初こそハンサムで、頼りがいがあるところにわたしの方が惚れた。一目惚れだった。……それなのに、その実態はただのマザー・コンプレックス。母親がいないと軍の指揮ひとつできない。
『あの子は昔から繊細なのよ。貴女が妻として気遣って頂戴』
『疲れている夫よりも先に寝るとは何事ですか! 恥を知りなさい!』
『こんな女がどうやってあの子に取り入ったのかしら。女狐め』
『子供はまだなの? まさか貴女――』
もう、うんざりよ。こんな姑に支配される生活なんて。嫁入り前は優しそうだと思っていたのに、夫は姑にべったりだし、姑は息子を甘やかし三昧。おまけに子供が出来ないのはわたしの身体のせいじゃないというのに、ひたすらわたしのせいにしてくる。なによ、あんたの息子が不完全なんじゃない!
……そのはずだったのに、わたしは妊娠した。夫は留守にしていたというのに。なぜ?
「やっと貴女も一人前ね」
でも姑は喜んでいるし、まぁいいと思っていた。我ながら、なんて適当なんだろう。もっといえば、子供ももうどうでもいい。好きにして頂戴。
「……あの、大変申し訳ございません。王妃様のご懐妊は誤診でした」
「なんですって?」
「我々も細心の注意を払っておりますが、なにぶん人外の身体というのは未知数でして……」
わたしは、長い年月を生きた狐だ。その伝説ともいえるわたしに欠点があるとでもいうの?
「これだから女狐は信用できないのよね」
姑の冷たい声。
夫はまだ帰らない。
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