666文字百物語

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  118、彼女の中の男の価値 Pixivでは「304」  

 僕の彼女、恋人はとても我儘だ。
 どう我儘かというと、僕の提案するデートコースがありきたりで、どこもただで行けるところばかりだというのが気に入らないそうだ。車は中古なのも気に入らないし、誕生日プレゼントに贈った花束が、僕の実家の庭で育てている花を束ねたものだと気づいた時には、もう手が付けられなかった。……別にいいじゃないか。タダより高い物はないっていうじゃないか。愛情があればそれで十分じゃないのか? それが本当の愛ってものじゃないのか? 両親の挨拶も済ませてあるし、あとは指輪を買って、正式にプロポーズするだけだ。なのに彼女はいつもいつも、デートの度に不満ばかり。僕は十分に努力してるのに、これで何がいけないんだ?
「だから、その貧乏くさいところが嫌なのよ。わたしと結婚したいって男はね、あなた以外にも大勢いるんだから!」
 プロポーズのために、奮発したレストランでそう言われた。彼女が他の男に言い寄られていることにも驚いたが、僕の彼女ははっきりいってお世辞にも美人とは言い難い。平凡な顔立ちの僕と釣り合う、地味な顔立ちだ。
「じゃあ、その男ってどこにいるのさ? 君は僕に何を求めてるの? 結婚じゃないの?」
「貧乏人には用がないわよ。あたし、彼と結婚するわ」
 そう言って彼女が見せたのは、七十がらみの老人の写真だ。
「わたしが介護してるんだけど、結婚してくれたら財産をくれるって。実はこの手の話って、今回が初めてじゃないのよ。ねっ」
 彼女が振り返った先には、似たような歳の老人の身体が透けて見えた。彼は満足げに彼女の肩に腕を回している。そうか、彼女が介護の仕事に就いたのはそれが目当てか。彼女のこんなに嬉しそうな顔は初めて見た。血色の悪い霊は、彼女を怨めしげに睨んでいるが、きっとこれは僕の邪推なんだろう。そうに違いない。
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