666文字百物語
117、こどもは見ていた! Pixivでは「293」
俺は憎い奴をこの手で殺しに来た。ネットが盛んなこの時代、アングラ系サイトを探せば代行してくれる奇特な奴がいるかもしれないが、俺はそいつをこの手で殺してやりたかった。それだけ俺の恨みというか、闇は深かった。
凶器はサバイバルナイフ。少年犯罪が問題視されている中で、スムーズな入手は難しいかと思っていたが、俺は自分で思っているほど凶悪な顔はしていないらしく、想像していたよりは容易く入手できた。
アパートの外、狭い庭では、幼稚園児くらいのこどもがひとりで壁に向かってひたすらボールを投げて遊んでいる。ガキは単純だし、すぐに俺の顔など忘れるだろう。俺は善人面らしいからな。
安心して殺した後、俺は証拠をすべて消した。幸い、周囲に証言をしそうな人間はいない。作業中も、作業を終えた時も、ガキはずっと何が楽しいのかボールを投げている。ずっとボールが壁に当たる音がしていた。これならば問題はないだろう。俺は安心してアパートを後にした。
「すみません、警察です。開けてくださいませんか?」
それからたったの数時間後、なぜか警察が俺のマンションを訪ねてきた。予想よりも遥かに早い。しかしここで断ると怪しまれるだろう。
「……どうぞ」
大丈夫だ、証拠はすべて消したんだ。凶器だって、指紋を念入りに消してから川に捨てたじゃないか。あの勢いなら流されてるはずだ。
「ご迷惑かと思ったのですが。なにせ検事の○○さんですし、実績もありますからね。ただ、この子が貴方を見たとはっきり証言するものですから」
喋る刑事の後ろには、あのガキがいた。そして俺を指差した。
「このおじさんです。サバイバルナイフで、心臓の位置を何度も刺してました。血痕は今着ているシャツから検出されると思います」
やけにはっきりと、大人のような口調で言う。図星だった。このガキの言う通りだ。
「僕は将来は検事になりたくて勉強してるんです。それなのに――」
この子はずっと見ていたんだ、俺のことを。そういえば俺もこの顔は法廷で見た覚えがあった。傍聴席にいた。
「調べさせていただきますよ。文句はありませんね?」
Copyright (c) 2023 rizu_souya All rights reserved.
-Powered by 小説HTMLの小人さん-