666文字百物語
114、箱入り娘も楽じゃない Pixivでは「327」
――え? わたし? わたしは見ての通り、箱入り娘です。一人娘だからって、両親に甘やかされて育ったんだって、あなたもそう思ってるの? 言っておきますけどね、それは偏見ですよ。朝から晩まで習い事やお稽古事で、一日中ぎっしりなんだから。もうね、息つく暇もないの。誰か代わってくれないかしら。あ、三味線のお稽古が終わったと思ったら、今度は生け花よ。季節の花を生けるの。これもね、コツがいるって師匠は厳しいの。はいはい、次は? え? 今度はお茶? はいはいはい、今、すぐに茶器を用意しますよ。その次はなぁに? そろばん? まったく、いやんなっちゃう。こうやってね、一日中、わたしの予定は一時の休みもなしに動いていくの。せわしないでしょ? だから、誰か代わってって言ってるの。でもあなたは嫌なんでしょ? あーあ、まったくもう。箱入り娘が羨ましいだなんてね、本人じゃないから言えるの。こんなに忙しいって知ってたら誰だってそんなことは言わないでしょ? あなたもそうでしょ? あ―いそがしい、いそがしい!
「箱に入ったまま喋りっぱなしなんて、大変だね」
「なんてったって、箱入り娘だからね。箱に入ってなきゃ詐欺じゃないか」
「あら、喉が渇いた頃にちょうど飲み物を売ってるわ。すみませーん! わたしたちにもなにかくださいな」
見世物小屋の花形は、今日も小さな箱の中でせわしなく動き続ける。もちろん彼女はそんなこと、知らない。
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