666文字百物語

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  113、夢の代償 Pixivでは「303」  

 わたしは生まれてくる時代を間違えたのかもしれない。
 今の時代は、みんな慌ただしくて、余裕がない。みんな自分のことで精一杯で、余裕というものがない。わたしは多少不便でも、余裕があり、笑顔のある時代がいいと思う。それはきっと、発達のためにみんなが失ったものだ。わたしはそうはなりたくない。ずっと純粋無垢な子供のままでいたい。花占いで一喜一憂しているだけの少女になりたい。
 でももう、わたしの身体は大人になってしまった。ずっとずっと両親の庇護下で、人形遊びをしている子供に戻りたい。そんな折、わたしは新聞である実験のモニターを募集していることを知った。
『貴方も過去の時代を生きてみませんか?』  その一文は、わたしの心をとらえた。もう離れない。


「楽しいですよ、きっと。当研究所は貴女のような方をお待ちしておりました」
 白衣を着た研究者にヘルメットをかぶされ、わたしは目を閉じた。なんでも、ここでは脳に直接かつての時代の情報を流し込むらしい。理屈はどうでもよかった。とにかくわたしは今の時代が嫌いなのだ。
 ヘルメット越しに、研究者の笑い声が聞こえた気がした。
「脳に処理しきれない情報を送り込んで、強制的に植物人間にする。これでドナーはひとり確保」
 何を言っているのか、よく聞こえなかったけど、見えてきたレトロな景色に、それもどうでもよくなった。
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