666文字百物語
110、手に入れたもの、失ったもの Pixivでは「444」
わたしには、秘密があるの。
最初はお友達にも教えたんだけど、誰も信じてはくれないの。でもね、わたしにはちゃんとわかるの。
この世には優しい妖精さんがいて、いつもわたしを助けてくれるの。……疑ってるでしょ? でも本当なんだから。
持ち物をクラスメイトに隠された時でも、ちゃんとそれよりもいいものを妖精さんが持ってきてくれるの。ちゃんとした、その職業の大人が使うような専用の高いものを持ってきてくれるの。イジメられて泣いてる時でも、妖精さんはいつの間にか、わたしの大好きな甘いカシスジュースを持ってきて、もっと甘くておいしいレアチーズケーキを持ってきてくれるの。
そんな夜はいつも妖精さんとお茶会。
月を見上げながら、七色に輝く妖精さんと一緒におしゃべりするの。お互いに言葉は通じないけど、ちゃんと何が言いたいのかは伝わってくる。妖精さんはわたしがいい子だからきてくれるんだよね? 他の子のところになんて、行かないよね?
「くす、くすくすくす……」
妖精さんと、今日は何をして遊ぼうかな? わたしはいつしか教室の女王となっていた。わたしには妖精さんがいるということで自信がついたのだ。これもきっと、わたしの行いがいいから。これまで意地悪してきた女の子たちにも仕返しをしたし、わたしは上機嫌。
でもね、ある時から妖精さんが見えなくなったの。あれだけ一緒にいてくれた妖精さんが、誰一人として見えないの。いったいどうして?
『妖精はね、常にいい子、純粋な子の前にしか姿を見せないんだよ』
幼稚園児だったわたしは、もう高校生。純粋でいるには難しい。あれだけ欲しかった女王の座が、ひどく邪魔に思えた。できることならば、もう一度、妖精さんに会いたい。
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