666文字百物語

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  106、サムシングフォー Pixivでは「392」  

 わたしは花嫁控え室でさっきからずっと待っている。まだ来ない、未だに来ない、遅い、遅すぎる。
 結婚してやるというのに、このわたしを待たせるだなんて。あんたみたいに取り得のない男にとっては、わたしは高根の花。お姫様として扱われるべき存在なのに。なのに、さっきからずっと、わたしを待たせている。理由は、本人曰く「サムシングフォーを用意したいんだ」とのこと。
 サムシングフォー。それは花嫁を幸せにしてくれるというジンクス。新しいもの、古いもの、借りたもの、青いもの。その四つを身に着けた花嫁は幸せになれるという。しかも今月は六月。ジューンブライドの月だ。彼が今月を結婚式に選んだのも、あの口うるさい母親の差し金だったに違いない。あんなおばさんを「お義母さん」なんて呼ばなきゃならない。結婚は女の幸せっていうけどね、それは間違ってる。むしろ結婚は、好きな女をそばにおいておける、合法的に拘束して置けるシステム、契約じゃないか。男こそが幸せになれるんじゃないの。
 そんな考えのわたしだから、彼に言われるまでサムシングフォーだなんて知らなかった。でも、何気にそろえるのって大変よね。新しいものなんか買う余裕なんてあるの? だって、つい最近わたしは会社を辞めたばかりだし。
「準備が出来たよ。サムシングフォー、ばっちり! 新しいものは花嫁の君自身、古いものは母さん、借りたものはレンタルのドレス、青いものは紫陽花の花束。ね、ばっちりでしょ?」
 彼は義母の骨を骨壺から持ち出したらしい。息子の晴れ姿を骨になってでも見届けたいという、その執念だけはかってあげる。もうこの世にはいないわけだけどね。
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