666文字百物語
105、大山吸ってん童子 Pixivでは「258」
五月にもなると、暑いところではもう蚊が出てきますよね。実は蚊は、ある鬼が生まれ変わった姿だという話があるのです。私? 私のことはお気になさらず。ただの話し手ですからね。その鬼の名は、『大山吸ってん童子』といいました。
桃太郎や金太郎のように、昔話において少年は大抵の場合、鬼や強い敵を求めて旅立ちます。大山吸ってん童子を倒しに行ったのも、きっとその手の伝承のものなのでしょうね。その男の子は人間から血肉を吸う鬼、大山吸ってん童子を退治しに山へと向かいました。仲間は……いたのかどうかは定かではありません。とにかく重要なのは、退治しに行ったという事実だけです。それでいいではないですか。
その大山吸ってん童子、最後の最期まで見苦しく抵抗したそうで。それで退治しに来た男の子に向かって言うんですね。
「俺の身体はアブになって、肉を吸う。俺の血肉は蚊になって、血を吸う。おまえたちの子孫から存分に吸ってやる! くらってやる! 覚悟しておけ!」
と、まあ、そんな負け惜しみを言ったらしいんですね。だから今の蚊やアブは血肉に攻撃してくるんですよ。これも大山吸ってん童子の祟りです。……え? なぜそんな昔のことを知っているのかって? さて、なんででしょうね。ただ、私の祖先に『鬼』と呼ばれる存在がいたそうなんですよ。家系図にも書いてあります。……何が言いたいんですか? 私は人間ですよ。……たぶん、ね。
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