666文字百物語
104、結婚 Pixivでは「251」
女友達と仕事を抜け出してのランチは、毎回マウントの取り合い。自分の方がいかにいい生活を送ってて、リア充で、他の人が羨まずにはいられない生活をしている、満たされているのだという主張を欠かさない。今年で三十路になる私も例外ではない。
この歳になると、いかに結婚するか、どんな条件のいい相手と――その条件というのがどれだけ人が羨ましく思うかということなんだけど――結婚するかがマウンティングのカギとなる。どんなにイケメンでもヒモだったり、実家住まいはアウト。マザコンやロリコンは論外。顔がよくて、収入がよくて、身長が高くて、運動神経がよくて、頭もいい。そんなイイ男、私だけの王子様はまだ現れないのかしら?
私だって、ただ指をくわえてイイ男を待っているだけじゃない。自分から積極的に婚活に参加したり、出会い系に登録したり、結婚のための習い事をしたりしてる。美容にだって気を遣って、髪から指先のネイルまで、一部の隙もなく武装している。これに引っかからなきゃイイ男じゃない。
そんなある日のこと。私はついに「これだ!」って男と出会った。
きっかけはエレベーターの故障。チーフである私は業者を呼んで修理を頼んだ。その業者というのがまたイケメンだったのだ。私好みのノーブルな顔立ちは、つなぎ姿でも素敵に映る。つい私は自分から誘っていた。
「あの、食事でも一緒にいかがですか?」
彼は眼をぱちくりさせたけど、「あなたのような美人のお誘いなら、喜んで」なんて言って白い歯を見せた。……よし、私、一歩リード! でも彼は妙なことを言った。
「ただし、あなたも死んでくれないと無理ですがね」
「どういうこと?」
「僕は実は幽霊なんですよ。ほら、身体が透けて見えるでしょう? 同じ死者にならなければ、好きも嫌いもありません。どうしますか?」
私は三十路で、もう悠長に王子様を待っている余裕などない。親からもいい加減に孫の顔が見たいとせっつかれている。私の人生は、ここが勝負どころだ。微笑んでスパナで自分の頭を殴る私を、彼は素敵な笑顔で見つめていた。
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