666文字百物語

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  102、恋する乙女じゃいられない Pixivでは「210」  

 わたしには、好きな人がいます。
 その人は人づきあいが苦手で、いっつも誤解を招いてばかりいるのです。口下手で、コミュ障で、どもり癖があって……。おまけにいつも寝癖のままなのです。もう、そんなんだから周囲に敬遠されちゃうんですよ。わたしがそう伝えると、彼は決まって言うのです。
「そうだね、君の言う通りだ」
 そう言っても、改める様子は一向にないのです。まったく、わたしがいないと何にもできないんだから。わたしだって、いつまでもあなたのそばにいるとは限らないんですよ? もしかしたら、明日にでもいなくなっちゃうかもしれないんですよ? わたしがいつまでも一緒にいると思ったら大間違いなんですからね?
「はいはい、わかった、わかった」
 本当にわかっているのかしら? いつもこうして心配になるのです。どうしようもない人だけど、どうしようもなく優しいこの人には、絶対に幸せになって欲しい。もっと、周囲に溶け込む努力をして欲しい。
 でもね、そんなわたしの想いは彼にとってはただ『重い』だけだったようです。
「まったく、なんて口うるさいロボットなんだ。家事ロボットなら家事だけやってればいいのに」  彼は、わたしのマスターは、わたしの主電源を切ってしまいました。……そんなにわたしの存在って軽いものだったんですか? わたしの想いは迷惑でしたか? そう問いたくとも、電源の切れたわたしには確かめるすべなどないのです。


「主人想いモードにしなきゃよかったな。余計な世話ばかりだった」
 男は電源の切れたボロボロのロボットに向かって呟いた。家事ロボットのはずなのに、そのロボットはひどく掃除が下手で、部屋は散らかり放題だった。
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