666文字百物語

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  101、真夜中の墓参り Pixivでは「307」  

 これはですね、私が実際に体験した話なんですよ。  私は寺の住職で、早寝早起きなんです、それはもう。だからその夜も早く寝たんです。住職って案外やることが多いんですよ。卒塔婆に書きものをしたり、御経を上げて廻ったりね。それなりに疲れるんです。
 その日もそうだったんです。読経があったので、疲れていたんですね。ほら、集中しないといけませんから。
 疲れている中に、どんどん、って。何の音かと思ったんです。うちの寺は結構小さいので、音は響くので。何事かと音のする方に行ってみたんですよ。そのまま邪気になって眠れませんからね。音は玄関の方から聞こえてきて(うちの寺は本堂と居住スペースがわかれてますからね)、あまりにもうるさいので出てみたんです。そしたら――
「……○○です。お墓参りに来たんです。させてもらえませんか?」
 思わず悲鳴を上げそうになりましたね。
 だって、うら若い女性がパシャマ姿で白目をむきながらそんなことを言うんですから。彼女の顔には見覚えはあったのですが、私は彼女のことは知りませんし、○○さんのお孫さんかなとは思ったんです。でも、真夜中に墓参りはないでしょう? その背後になにか、蒼い光が見えたんですよ。


 後日、私は○○さんのご主人の七周忌だったので、お宅を訪ねたんです。そこでその話をしていると、私があの夜見た、例のお孫さんがぺこりと頭を下げたんです。覚えているのか訊いてみたんですが、全く記憶にないとの事でした。どういうことなんでしょうかね? 霊魂が彼女を呼んだのでしょうか? 住職がこんなことを考えてしまうのって、おかしいですかね?
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