モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:79
時計の秒針が耳障りな音を刻む。
私は5分ごとについつい時計に目をやってしまう。
「……ミサキちゃん」
あの子が飛び出してからまだ30分も経っていない。
幸い今は終わりかけだけど夏、夜とはいえまだ明るい時期。おまけにミサキちゃんだって高校生。人並みの判断能力は持ち合わせている子だ。
いつまでも私が干渉するのもよくない。
あまりやかましく口を挟むのもきっとよくない。
ああいう子は最低限の世話だけで後は本人の好きにさせるのが1番いい。
私は普通の家庭で普通に育ったから、ミサキちゃんのような事情のある子が本心では何を考えているのかは見当がつかない。何を考え、物事をどう見て受け取るのか。必死に勉強したけど未だにわかっていなかったのかもしれない。
「もし……何かあったら……」
真咲さんのところにいた頃のあの子のことは……あまり印象に残っていなかった。ミサキちゃんよりあの女――三島真咲という人のことで頭がいっぱいだったから。
私はあらゆる意味であの人は許せない。
そう考えていたのに、人づてに真咲さんについての噂を聞くうちに印象が変わって来た。
「嫌い」より、「理解不能」。これが彼女に対する印象で、昔から変わることがない。知ろうとすればするほど彼女のことがわからなくなってゆく。どんな人なのか。どう考えどう行動し、最終的に何がしたいのか。あの人のことは本当にわからない。
人間話せばわかる。
私はずっとそう考えて生きてきたし、どんな人でも話し合えば分かり合えると信じて来た。そんな私の考えを根本から崩した存在。それが真咲さんだったのだ。
ある意味でとても勉強になった。年齢は立派な成人でも、とてもそうとは思えないような人もいるのだと。私も世間知らずの甘ちゃんだったと。世の中にはどうしてもわかりあえないこともあるのだと。
真咲さんをかわいそうだと思ったけれど、そう感じる私もまた別の意味でかわいそうなのかもしれない。
ただ、これは私と真咲さんの因縁であって子どもたちは関係ない。
だから、あの子は私が真咲さんへの感情とは関係がない。いくら親子とはいえ真咲さんとミサキちゃんは別の人間でそれぞれ独立した別の人物なのだから。
真咲さんの子どもだからって、容易く放り出せるわけがなかった。
そう思って我が家に来てからずっと、真咲さんの代わりに親として育ててきたはずだったのに。
「やっぱり……血縁者が1番いいのかしら……?」
私にはどうしても真咲さんの元に返すのはいい選択だとは思えない。ミサキちゃんはちゃんと教えれば理解できるし覚えられる子だ。だからミサキちゃんにこの判断ができないわけではないと思う。
ミサキちゃんが迷う理由が私にはわからない。結局、私は普通の家庭で普通に育った普通の人でしかないから。ミサキちゃんのような訳ありの子の気持ちを理解できるようにはならないのだろうか。
「……なんでもいい」
再び時計に目を向けた。まだ5分も経っていない。
「早く帰ってきなさい……」
何かあったらどうするの?
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