モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:75
「……わかりません」
美妃さんに願いは叶ったかと問われた私は正直に言った。
本当にわからないのだから。
「……」
美妃さんの表情は変わらない。ただ静かに私の話を受け止めようとしている。そんな風に思えた。
「いえ、別にそんな難しいことを願ったわけではないんです。お金が欲しいとか綺麗になりたいとか、そういうことは願ってないんです」
「わかっています」
そっと、美妃さんは言う。
「雪子さんはその方向の願いをする方ではないでしょう?」
「そ、うですね……」
美妃さんは生徒会長ということもあって人をよく見ている。
観察というほどでもないんだろうけど、とにかく相手をよく見て、相手がどんな人物か、しっかり見極めている印象がある。表面だけを見ているんじゃなく、その人の根っこの部分、本質とでもいうべき部分を驚くほど的確に理解している節がある。だから相手が何を求めているのかがすぐにわかるし、それに応じた最適解を即座に出せる。
相手が求めている言葉を躊躇なく言える。美妃さんがみんなに好かれているのはきっと当たり前のようにこれができるから。誰だって自分が言ってほしい言葉をくれる人は好きだろう。
現に私もそうだった。直接会うのは初めてでも一度話しただけで即座に美妃さんが好きになった。好き……というより、心を奪われたという節すらある。
「雪子さんならご自身の願いを見誤ることはないでしょうし」
「……」
「どうかされました?」
「いえ……」
どうして美妃さんは常に落ち着いて、余裕を持っていられるのだろう。周りを見るゆとりがあるのだろう。
私なんて……本当はいつも怖くてたまらないのに。ずっと人の視線が気になってたまらないのに。ずっとずーっと、人にどう思われるか気になって、嫌われたらどうしようって、変な人おかしな人異常な人と思われたらどうしようって。そればかり気になって何もできないくらいだったのに。
なんで私と美妃さんはこうも違うんだろう。
「それが私たちだから」
「……え?」
私が泣きたい気分になったとき。美妃さんがポツリと言った。
「わたくしたちはみんな違う存在だから。この世に全く同じ人なんていない。全員が完全な別人でしょう?」
「そう、ですね……?」
「この時点で人は全員唯一無二。代わりなどいないんですよ」
「……」
私は黙って美妃さんの話を聞いている。
「なのになぜか、それで満足することはない。本来他の誰も自分には成りえない時点で尊い存在なんですよ。唯一無二とはそういうこと。天上天下唯我独尊ってそういう意味でしょう?」
理屈ではたしかにそう。
唯一無二が素晴らしいことだというならば、もう十分私たちは全員が素晴らしい存在だ。なのに現実では多くの人は満足できない。
もちろん私も。
「なぜ特別な何かになりたがるのか。特別になってどうしたいのか、最終的にどうしたいのか、どうなれば満足なのか」
「……」
「雪子さんはどうです?」
「私、ですか?」
少し怖くなった私が美妃さんを見上げると、そこにはいつものように穏やかな美妃さんの微笑があった。
「雪子さんはご自身の幸福の形はありますか?」
「しあわせ……」
「貴女は何で困っていて、何に悩んでいて、現状から何が変われば幸福になれますか?」
改めて言われると自分でもよくわかっていなかった気がする。
私は最終的な幸せ以前に、上手くいかない毎日に困っている。まずは目の前にある日常が変わらないとずっと先のことなど考える余裕なんてない。
「まずは自分の求めているもの、逆に欠けているものをよく考えてみてはいかがでしょうか」
「自分を見つめ直す、ということですか?」
「……」
私が尋ねても美妃さんは何も言わない。
彼女は私が困っている時はそっと手を差し伸べてくれる。けれど肝心なところは私自身に委ねる。それを決めるのは貴女だと言わんばかりに。
「それは貴女が考え、決断することですから」
そんな美妃さんのスタンスが心地よくて、私はずっと彼女が好きだと思っている。
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