モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:73
「あたしの気持ちなんて誰もわかってくれないんだ」
珍しいことに、あいつも同じ気持ちのようだった。
昔は「あたし」だったあいつ。今は「私」になったあいつ。
元はひとつだった。というよりあいつはあたしから生まれたようなものなのに。あたしの失敗を糧にして失敗しないように、無難にやれるように、そうして「あたし」らしさを極限まで排除して押し込んでみないふりをしているのがあいつなのに。
なのにあいつはいかにもいい子ちゃんぶって、「あたし」なんか知らない、なんて顔をする。本当に腹の立つ話だ。
私もあたしも同じだろ。
同じくせに……なんであんただけ。
あんただけ、私だけ幸せになろうなんて許さない。あたしは今更幸せなんて手に入らないんだから。いや、もしあたしも幸せになれるとしても。きっと人並みなんて届かない。
だから。
「みんな不幸になればいい」
みんながあたしと同じくらい不幸になれば、それがあたしの幸せ。
みんな仲良く不幸ならそれでいい。あたしが我慢できないほど気に喰わないのは、みんなが幸せなのにあたしだけ不幸なことが死ぬほど耐えられない。みんなが不幸になればいいというのはそういうこと。
結局あたしは、みんなが当たり前に持っているものを自分だけがどうがんばっても手に入れられない現状が何より気に喰わないんだ。
「みんな不幸になればいい」
あたしはもうとっくに。生まれたときから不幸だから何も変わらない。
私も、周りの連中も、学校のみんなも。……生徒会の連中も。全員。
「それが……あたしの願い」
みんな壊れてしまえばいい。
『自力で解決できるなら最初からそうすれば?』
あたしの耳にあいつの呟きが届いた。
「……」
ふと顔を上げると、あいつが慌てて口元を押さえた気配を感じた。言ったことを後悔したのか、自分でも驚いたのか。
『私……今なんて言った?」
言った言葉を紛らわすようにあいつは速足で廊下を歩いている。
『これじゃ……これじゃまるで――』
「!」
あいつが想像しているのが誰かは簡単に想像できた。
「……」
あいつもあたしのことを考えているのだろう。嫌なシンクロだ。
「……嫌われたもんだね」
きっとあいつが最も嫌っているのはあたしなのだろう。
「まさか自分自身にまでこれほど嫌われるとはね……」
昔からずっと、あたしは嫌われ者だった。
どこに行っても、誰といても、何をしても。あたしは嫌われてきた。
でもそれはあたしのせいじゃない。
最初こそ仲良くできてもいつか必ずお母さんのことがバレる。「あのヤバイ女の子ども」だって必ずバレる。そして決まってみんなあたしの前から去っていく。
面白いことにいい人や真っ当な人と言われる類の人ほど手のひらを返してあたしを嫌う。真っ当だからこそ、その真逆の存在が許せないのだろう。むしろ世間で問題児と言われる類の人の方が優しい気すらする。
なら、あたしを毛嫌いする「私」は果たして真っ当ないい人なのだろうか。
「なんてね」
鼻で笑ってすぐに否定する。
「私が真っ当? 馬鹿も休み休み言えよ」
ひとりで悪態をついていると、あの女の気配を感じた。
「……!」
いつもチョコを食べているあの女。私に対して最初からやけに好意的だったあいつ。
「……」
……でもなんでだろう。
あの女にはなぜか不思議な気分にさせるものがある。はっきりこれだと言い切れるようなものじゃない、色んなものが入り混じったもの。そんな不思議な何かを呼び起こすあいつに、あたしもまた興味は覚えている。
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