モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:72
うるさい。
さっきからずっと、鎖が揺れて軋んで切れる、砕ける音が聞こえる。
最初は絡み合って解けそうもなかったそれ。
今は柔らかいマシュマロみたいに容易くちぎれる。
そんな感覚。
「……うるさい」
ぎしっ……ぎっ、ギリギリギリギリ……
ギッ。ギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシギシ……ジャララララ。
かりかりかりかりかりカリカリカリカリカリジャララカリギリカリギリギリギリリリ……ジャララギリギカリカリジャララガリガリガリ……ギリギッ。
きりぎりぎりぎりぎりぎりぎり……ギッ、ギリギリギリギリギリギリギリ……ジャエララララララ……ジャリッ。
「うるさい……うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」
耳障りな鎖の音。互いに摩耗しながら廻る歯車。
目の前から歯車が減っていった。
ギリギリ……ギシッ……ジャララララ……
ジャララカリギリカリギリリリ……ジャララカリジャララガリガリガリ……
……ギッ、ギリギリギリギリギリギリギリ……ジャララララララ…………
代わりに続々と現れる無数の鎖。それらは消えることなく増えてゆき、絡み合い、あたしの目の前で増殖していく。
「うるさい……」
あっという間にあたしの視界は鎖で埋め尽くされた。見えるものは無数の鎖だけ。
まるで鎖の森のように。
なにかを覆い隠すように。
「っる……さい……」
心当たりはある。いくつも。
この鎖はいつも、あたしが嫌なことを思い出すたびに現れる。元からあった鎖は消えずに新しく表れたものがどんどん増えていった。そして今はあたしの視界を埋め尽くすほどの量になった。
よくわからないけど、なんとなくこれはあたしの気持ちに反応して増えるものなんだろう。嫌なことを思い出すたびに増えていくのはきっとそういうことだ。決して消えることがないのはあたしが吹っ切れていない、未だに囚われているから。そう考えれば辻褄は合う。
つまり、あたしのいるこの場所から目障りな鎖を消したいと思うなら向き合って結論を出したり、割り切ることができればいいということなんだろう。
現にあの2人はそうしたから鎖が消えて行ったんだろう。
「……」
どうやって割り切ることができたんだろう。
どうやって納得することができるんだろう。
希幸も立花も根が明るい。現在悩んでいても生まれ持った性格が明るいとか前向きとか、そういうポジティブな性分だからそこまで深刻にならずに済むんだろう。良くも悪くもあまり深く考えない、気にしない。
だからいつまでも引きずらずにさっさと立ち上がれる。あまり引きずらないからいつも前向きでいられて、だから人とも上手くやれる。周りとも上手く関われて生きるのも上手いんだろう。
人はきっと、いつまでもグチグチ引きずるようなネガティブより、いつも前向きで明るいポジティブの方が好きなものだから。
でも、そんな人間ばかりじゃないんだよ。
いつまでも嫌な記憶が消えない。消えてくれないあたしみたいな奴もたしかにいるんだよ。
世の中を回しているのは前向きで勤勉な人間の方が多数派なんだろうし、だからこそ社会は廻っている。ネガティブな人間の方が多かったらとっくに世の中終わってるだろう。口を開けば愚痴ばかりの人間ばかりになったら周りの人だってうんざりする。最悪ストレスで潰れる。だからきっと、ちゃんとしたまともな人が多数派でないとみんなが困る。
あたしみたいに暗くてネガティブな奴の方がマイノリティで、ちゃんとしてないやばい奴なんだろう。
だから昔からずっとあたしは異分子で、他の子とは違くて、おかしい奴だったんだ。だから昔からずっと、あたしはひとりで、どこにも誰にも相手にしてもらえなかったんだ。
「あたしが悪いのかよ?」
けどそれは、本当に全部あたしのせいなのか。
元はと言えばお母さんが馬鹿なことばっかりするから小さい頃から「あのヤバイ女の子ども」という目で見られてきた。喋れるようになる前からそんな扱いされてきたら誰だって歪むんじゃないのか。
それは本当にすべてあたしが悪いのか。
「……」
あたしはずっとここにいて、あたしはずっとこればかりを考えている。
鎖はしっかりと絡み合っていて断ち切られる気配など微塵もない。
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