モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード:70

 私はここにいていいのだろうか。
 さっきからそう思いながらも離れることはできなかった。
 希幸さんと立花先輩、2人の話を聞いているうちにあの子のことを思い出していた。これまでの希幸さんの話を聞いているとどうしてもあの子の顔が頭をよぎる。
 リリカ。
 昔の私が一番嫌っていた子。憎々しく思っていた子。……リリカのパパは私のお父さんでもあるから、実際には異母姉妹に当たる関係なのだろう。けれども一度も姉妹らしいやり取りなんかなかった。
「――立花サマは、すごいです」
 私が考え込んでいる間にも2人の話は続いている。
「――」
「――」
 2人の話は更に深刻なものになってゆく。
「……」
 本気で私はここにいていいのだろうか。ずっと離れよう、この手の話は部外者が盗み聞きしていい内容じゃないとわかってはいる。
 なのに離れることはできなかった。
 自分が知らなかった、希幸さんと立花先輩の事情に釘付けになっていた。
 出会ったときから2人とも何の問題もない普通の人だと思っていたのに。苦難が多いのは私だけで、他の人たちはみんな優しくて常識的な親の元で何の苦労もなしに平和に暮らしているものだとずっと思っていたのに。
 まさかこの2人にもこんな事情があったなんて思いもよらなかったから。2人とも他の人と何ら変わらない、むしろ人より充実した生活を送っていると無邪気に信じていたから。人知れず悩んで苦しんでいたなんて夢にも思わなかった。
「いつも思ってる。なんであたしが? あたしだけ」
 立花先輩の言葉が私に届いた。
 まさにそれはずっと私が思っていたことだった。そんなことを考えるのは私のような陰キャだけで、陰キャとは程遠い立花先輩がこんなことを言うなんて意外だった。前からたまに出ていた弟さんも話しぶりからするにどうやら実の弟ではなかったらしい。希幸さんもそれを知っていて頻繁にぶつかっていたのだろうか。
「あなたが好きだから!」
 立花先輩のそんな重たい事情を知った上で希幸さんは立花先輩を好きでい続けていた。
「……」
 本当に立花先輩が大好きなんだ。
 誰かにそこまで深く好かれる立花先輩はやっぱりすごいし、羨ましい。
 誰かをそこまで深く好きになれる希幸さんもそれ以上にすごいし、愛情深いんだろう。
「……」
 ありきたりな、すごいという言葉しか出てこない。私には縁のなかった感情で縁のなかった関係……。
「……うらやましい」
 誰かを深く想えること、想われること。それはとても得難いもので、私にはきっと無縁のものだ。
 だからこそ希幸さんと立花先輩の関係は傍から見ていて理解できないもの。それでいて、すごく憧れる。
 きっと私にはここまで深く愛してくれる人なんかひとりもいないのだから。
 私のこの気持ちを理解して共感してくれる人なんか、きっと、いない。
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