モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:68
「あんなにしっかりしてたのに」
誰も口には出さないし、本人に直接言ったりしない。
けどきっと、クラスの誰もが同じことを思っているだろう。
最近希幸ちゃんの様子がおかしい。前まではいつもきりっとしてはきはきしてたのに。今はいつもぼんやりしてるし元気もない。あまり笑わなくなった。
「希幸ちゃん……」
わたしはつい口に出していた。
「この頃元気ないよね。いつも疲れてる」
「……うん」
やっぱり。みんな同じように思ってたんだ。
「大丈夫かな?」
続いて出てきた言葉は自然と心配になってのこと。
いつも困ったときに助けてくれた希幸ちゃんのことは好きだし心配もしてる。
でもそれ以上に心配なことは。
「希幸ちゃんがいないと……」
「うん」
「うちのクラス大変だよ」
たまに授業中に騒ぐ子やじっとしていられない子もいるけど、それでもなんとかまとまっているのはその手の子にびしっと言ってくれる希幸ちゃんがいるからだ。
たぶん先生をはじめとした大人たちだって希幸ちゃんのおかげでかなり助かってるんじゃないか。クラスで何かを決める時だって仕切るのが上手いまとめ役がいないと先生だって困るだろうし。
希幸ちゃんがいつも通りでいてくれないとみんなが困る。わたしだって困る。何かやらかした時に自分で解決しなきゃならないし。
「心配だよね……」
この子も希幸ちゃんのことは好きなんだろう。ちゃんと心配はしてる。
でもそれは、本当に「希幸ちゃん」が心配なの? 「希幸ちゃんがいない学校生活」が心配なんじゃないの?
……そんなこと聞けるわけがないけど。
「あなたはしっかりしてるから」
これは希幸ちゃんを褒める言葉。
でもそれだけじゃない。
希幸ちゃんに頑張ってもらわないと困るって、頑張ることを強制する言葉でもあるんじゃないか。
ふとそんなことを思った。
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