モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード:67

 葉が揺れる。
 あたしは黙って希幸の話を聞いていた。さっきより薄暗くなり、残暑が厳しいはずが僅かに冷たさを感じた。
「立花サマ……私ね。いまでは可哀想だと思うんです」
 薄暗くて希幸の表情が見えない。
「優等生って」
 希幸はどんな気持ちでこの話をしているのだろう。語り口が淡々としていて感情が読めない。
 いつも明るい希幸だからこそ、今の雰囲気に落ち着かないものを感じる。
「しっかり者、優等生、いい子……それって結局――」
 余程思うところがあるのだろう。
 それだけはひしひしと感じる。
「都合のいい子」
 ことさら冷たく吐き捨てた。
「子どもの頃は心底喜んでたんですよ? いい子って言われると誇らしくて」
 何とも言えない表情で希幸は薄く笑った。
「ほんとうに、ばかみたい……」
 実感を伴った口調だった。
 それなりに長い付き合いの希幸のこんな顔を見たのは初めてだった。
「……それで。希幸はどうしたの?」
 内心戸惑いつつ、あたしは先を促した。


「――」
「――」
 希幸の口から語られる過去の話には、色んな意味で驚かされた。
 あたしが希幸と出会ったのは中等部にいたころ。中学生のころ。その頃には既に希幸は全然優等生っぽい感じはしなかった。むしろどちらかといえばトラブルメイカーの部類のような印象だった。
 自分の想像と実情が真逆だった時って、驚く以前に衝撃のようなものを感じるのだろうか。
 あたしはつい黙り込んでしまう。
「……」
 そして過去の希幸の行動に、どこか自分に似たものを感じてしまった。
 昔は聞き分けのいい優等生だった希幸。昔は我の強いワガママだったあたし。
 それが今となっては逆方向に成長している。
「……」
 なんとなく、あたしがずっと希幸に対して抱いていた感情の原因がわかってきたきがした。
Copyright 2025 rizu_souya All rights reserved.

-Powered by 小説HTMLの小人さん-