モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード:66

 今日もうちの教室はしずかだ。
 黒板にチョークで字を書いていく音、書かれた字は正直あんまり上手くない。はっきり言って下手。
「それではやりたい係があれば立候補してください」
「何人もいたら?」
「その時は話し合いかじゃんけんで」
 それでも問題なく話が進んでいくのは学級委員の希幸ちゃんのおかげだろうと思う。
 黒板の前で話をまとめて仕切っているのは北南希幸ちゃん。クラスの学級委員だ。もうひとり男子がいるけど、いつも希幸ちゃんがやっているので暇そうにしている。でも上手い人に任せた方がいいよね。
「それでは掃除係は――」
 とんとん拍子に係は決まり、委員の子は最初の委員会活動について簡単な説明があった。
 真面目で勉強ができて、運動もそこそこできて決まりは絶対に破らない。絵にかいたような優等生ってやつだろう。当然、先生からも信頼されていて、大事な話の時には必ず希幸ちゃんがいる。
 いいなぁ。すごいなぁ。
 私も希幸ちゃんみたいだったら、親にも先生にもしょっちゅう怒られないで済むのかな。羨ましい。
 そんな時私の近くの席の男子の声が聞こえた。
「なんかさ」
「勉強できて先生に気に入られて」
 一瞬びくりとした。
「……うざ」
 なんでだろう。
 私は希幸ちゃんのこと嫌いじゃない。むしろ好きだし、クラスにいてもらわないとすごく困る。先生よりも頼りにしている時だってある。
 なのになんで、この言葉に頷きそうになるんだろう。


 新学期が始まってしばらく経った。
 去年まではみんな大人しく授業を受けていたのに、一部の男子が授業中に騒ぎ出すようになった。私は初めて同じクラスになった子だ。そして……希幸ちゃんのことをよく思っていないというのは私でも分かった。
「ぎゃははは……」
 今日も彼らは授業中に騒ぎだす。
「なんなのアイツら……」
「さっさとつまみだしてほしい」
 真面目なみんなはずっと迷惑している。私もそうだ。誰かはっきり言ってくれないかな。
 そんなことを考えていたら黒板の前にいた希幸ちゃんが教卓を叩いた。
「ちょっと! 今授業中でしょ。静かにして!」
 よっぽど怒っていたんだろう。あの誰にでも優しい希幸ちゃんがここまで起こるなんて珍しい。
 心の中では希幸ちゃん頑張って! と応援した。心の中でだけ。だってああいう子に目を付けられたら怖いもん。
「『しずかにして〜』」
「あはは似てる似てる!」
 男子たちは何が面白いのか勝手に盛り上がっている。
「なんでムキになってんの〜?」
「学校なんかにマジになっちゃってどーすんの?」
 希幸ちゃんのチョークを持つ手が止まった。相当イライラしているんだろう。私もこの男子たちに出て行って欲しいという気持ちで一杯だった。
「なにふざけてるの!!」
 とうとう希幸ちゃんがキレた。
「そりゃ、あんたたちは勉強できなくていいんだろうけど。真面目に頑張りたい人の足引っ張らないで」
 思わず拍手しそうになった。よく言ってくれた。ヒーローだよ希幸ちゃん!
「ちゃんと頑張りたい人にとって、あんたたちは大迷惑よ!」
 ダメ押しの一言に他の生徒もノリノリで男子たちへの文句が飛び交う。
「そーそー!」
「バカなんだから黙ってなよ」
「じゃーま!」
 密かに私も便乗した。ざまあみろという気持ちだ。
「うるせー」
「ばーかばーか!」
 私たちへの反撃がそれしか言えないのかと笑ってしまった。こいつら本当にバカなんだな。
「それしか言えないとか頭悪いね〜」
 先生もさっさとつまみ出してくれないかな。
 そう期待していたんだけど、先生は困った顔で希幸ちゃんに何か言ったようだ。希幸ちゃんの表情が暗くなる。
 まさか先生がやばい奴らの肩を持っているのかな。これがえこひいきってやつ?
 希幸ちゃん、先生と何話してたんだろう……。
 でも希幸ちゃんは今までと同じようにちゃんとクラスをまとめてるし、例の男子が授業中に騒いでいると注意するし、だいじょうぶなんだろう。
「うるさい。今は授業中でしょ。静かにして」
「おれが喋りたいから喋ってるだけだ」
「いい子ぶりやがって」
「ぶーす!」
 でも先生は優しく注意するだけでそれ以上は何も言わない。私たちはすごく迷惑してるのに。さすがの希幸ちゃんも困った顔をすることが多くなった。
 なんであの子たちはちゃんとしないんだろう。
 私たちは我慢して大人の言うことをちゃんと聞いているのに。
 あの子たちばっかり迷惑かけても見逃されるっておかしい。なんだか真面目にやっているのがバカバカしくなる。
 だけど、ちょっと羨ましい。
 それに、私の中であの時聞こえてきた言葉が忘れられない。
『……うざ』
 私は希幸ちゃんにそんなこと思ったことなんかない。
 私は希幸ちゃんのことはいい子だと思っているし、好きだ。
 でもなんでなんだろう、たまにモヤモヤすることがある。
 私と違って希幸ちゃんはみんなが認める優等生で、大人からも頼りにされるすごくいい子だ。私なんかあんまり大人に褒められることはない。頑張れないし結果も出せない、そんな私と希幸ちゃんは違うってわかってる。
 けどずるい。
 希幸ちゃんばっかりチヤホヤされるのはすごくずるい。そう思ってしまうのは私だけなのかな。
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