モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:61
ずるい。
ほんとうに、ずるい。
『姉ちゃんの得意料理知ってる?』
『姉ちゃんの手料理って全部おいしいけどさ、ビーフシチューが絶品なんだよ!』
『あれ食べたら他のビーフシチューなんかもう食えないな』
学校から帰って、自室に直行。
アイツと連絡先を交換してからまだ数日ともいえない短い期間。なのに。
「……」
わたしのSNS、個人的なやり取りのメッセージはそこそこの長さの文章が並んでいた。アイツはSNSというものに慣れていないのか。長文をポンポン連投してくる。それだけならまだいい。
『俺、姉ちゃんがいて幸せだな』
立花サマとの仲良し自慢としか思えない内容ばかりが敷き詰められている。たしかに立花サマの情報交換をしようと持ち掛けたのはわたしからだった。それにわたしとしても立花サマのプライベートな一面も知りたかったし、何より心配だったから詳細情報が欲しかったのだ。
わかってる……わかってるけど。
「……あのシスコン」
ムカつかずにはいられない。
わたしの大好きな立花サマとここまで近くで親しくて仲のいい、「きょうだい」という存在。それが羨ましくて仕方がなくてムカつくのだ。
おまけに男。わたしの大嫌いな男なんだ。
『でさ、この前姉ちゃんが』――
「ほんとずるい」
立花サマのことが好きな子、憧れている子は校内だけでもかなりの数が存在している。校外でも部活の試合で知り合った相手や他校のチームにも明確に立花サマに尊敬のまなざしを向ける子がいることも、わたしは知っている。恋する乙女には明白だから。
立花サマも多少なりとも自身に向けられる行為には気づいているだろう。だけど自覚している範囲以上に立花サマは好かれているし、純粋な好意以外の感情を向けられてもいる。
ずっと立花サマを見てきたからわかる。
その立花サマが誰よりも大切にしていて、誰よりも優先して、誰よりも優先する相手。
それがアイツなんだ。
魅力的で人気者の立花サマの寵愛を一身に受ける弟。誰だって面白くないし、ムカつく話だろう。
立花サマにそこまで想われるなんてずるい。
認めたくないけど、立花サマが最優先に考えるのはアイツなんだ。
「たしかに立花サマの情報は手に入るけど……それはそれとして、やっぱりムカつく」
スマホに表示される立花サマの情報を眺めながら、何の感情かわからない、重いため息を吐いた。
「じゃ、明日ね」
「はいまた明日♡」
生徒会活動を終えた帰り道。
わたしは立花サマと別れた。いつものように。わたしと立花サマは下車する駅が同じだ。まだ日が長いとはいえ女子ひとりでの帰宅は昨今の情勢的に不安だから、うちの学校ではできるだけ複数で下校するようにと注意喚起されている。
特にわたしは男に嫌悪感があるからなおさらひとりで帰りたくない。立花サマと別に帰る時は大抵ミサキちゃんと一緒だ。
立花サマと別れて、わたしは歩き始めた。
いつもと何一つ変わらない帰り道。まだまだ日は照っていて、残暑はまだしばらくは続くのだろう。
「……ねぇ」
人通りがまばらになってきた辺りで、わたしは呼びかける。
『なぁに?』
すぐに隣に小さいわたしの姿が現れた。チョコ先輩の言うところの「モノクロ」がこの子なのだろう。
「立花サマはどうすると思う?」
『どう……って?』
「わかってるくせに」
だって、あなたはわたしなんでしょう?
ならば、わたしの気持ちを一番理解しているのはあなたでしょう?
「願いのこと」
だからこそ聞いてみたかった。
わたしと同じような思考回路をしているこの子がどう思ったのか。これからどうすると考えたのか。
この子がわたし自身なら、こんな会話に意味なんてないのに。
『……あなたも大体察しはついているんでしょう?』
「ついているけど……でも誰かに聞いてみたいじゃない?」
わたしのモノクロはしばらく考え込んでいたけれど、最終的な結論はわたしと同じだった。
『わからない』
「そっか」
そうだよね。
わたしが自分以外の逆の立場でも「わからない」と答えるだろう。なぜなら、願いはその人だけのものだから。願いや希望って本人の心のそこから湧き上がる何かだから。
本人以外がわかった風な口を利くのは逆に何もわかっていない証拠だから。
「わたしもわからないや」
立花サマの願いはなんなんだろうね。
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