モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード:54

 あの女、何を考えているんだろう。
 見飽きた光景をぼんやり視界に入れながら、あたしはそればかり考えていた。
 あいつが「チョコ先輩」と呼んでいるあの女。あいつは一体何なんだろう。
 あの女は何で何がしたくて、何が目的なんだろう。

「ねぇ」
 考えこむあたしの邪魔でもするかのように、しつこく呼ぶ声がする。
 ちっ。またあいつか。
 自分の部屋にいるあいつが呼んでいる。しつこい。
 あいつがあたしを呼ぶ理由は大体わかる。けど素直に出て行ってやる気はない。
 あたしを、自分を嫌って拒絶した奴に親切にしてやる義理はない。
「……」
 無反応を貫くあたし。
 諦めずに呼ぶあいつ。
「聞こえてるんでしょ、私の声。ちょっと前まで呼んでないのに出てきたじゃない」
 よく言うよ。
 ずっとあたしを否定して拒絶してきた。
 それでいざ、自分が用のある時だけ呼びつける。……ろくでもない。
「何か知ってること、あるんでしょ」
 無視を決め込むつもりでいたけれど、なんとなく顔を出してやろうと思った。
 特に理由はない。ただの気紛れ。
 しょうがない。
「そっちが出てくるなって言ったくせに」
 あたしは久しぶりにアイツの前に出た。
 あいつのちょっとホッとしたような顔が妙な気分だった。前までは厄介者を見る眼であたしを見ていたくせに。
「あんたってほんと……自分勝手」
 あいつは黙りながらも不満気にあたしを見つめている。
「終わってるね」
 なんだかおかしくなって、つい笑ってしまった。
「ほら、そのカオ」
 あいつのこの手の表情――怒りや不満や苛立ち、それらは馴染みのあるものだ。
 向こうは必死に否定するけれど、あたしとあいつはとてもよく似ている。
 そりゃ元々同一人物だから当たり前なんだけど、そういう意味じゃない。
「あたしらはやっぱり同じ」
 過去も現在も。
 あたしもあんたも。
 何も変わらない。
「どんなに目を背けて自分に言い聞かせても、本質はなにひとつ変わっていない」
 図星だったのかあいつは手を握り締めた。
 無理やりにでも虚勢を張るように、あいつはあたしを睨みながら言った。
「聞きたいことがいくつかある」
 その強がるところ。身に覚えはないのだろうか。
「あんたは何?」
 これが聞きたかったとばかりに矢継ぎ早に質問攻めにしてきた。
「私が頻繁に迷い込んでた歯車だらけのあの場所は、あれが『あちら側』なの?」
「あそこにいたらどうなるの?」
「連れて行ったのはあんたなの?」
「あんたは何を知ってるの?」
 他人といる時は黙っているくせに、あたし相手だと遠慮なくしゃべれるんだろう。自分が相手なら遠慮しなくていいから。いかにもぼっちがしそうなことだ。
 ただ、あたしも別に優しい人でも人がいいわけでもない。
「あたしがあんたのためになることを教えると思ったの? バカなの?」
 まさか教えてもらえないとは。
 そんな反応を見せたあいつに満足した。世の中そうそう上手くいくわけじゃないからね。わかってるんでしょ。
「散々無下に扱ってたくせに。都合のいい時だけ頼るの?」
 あたしは笑えてしまった。
「虫のいい話だね?」
 結局あたしはあいつを揶揄うためにこっちに来たのかもしれない。
 まあいいや。
「あんたの困難を祈ってるよ」
 別れ際に精一杯の呪いの言葉だけ残してあたしはこっちに戻って来た。
 歯車だらけのこの空間。いつしかあたしは懐かしささえ感じるようになっている。
 祝いと呪いはどこか似ている。
 なんとなく、そんなことを思った。
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