モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
サイドストーリー53
わたしは、自分のことがこの世で一番きらい。
ずっと周りに心配をかけて、余計な気を遣わせて、上手くできないことで失望までさせている。
それでもみんなは優しいから。わたしがどれだけダメダメでも笑って許してくれて見守ってくれる。
小さい頃からずっと、わたしはどれだけ周りの優しい人たちを悲しませてきたのだろう。本当に、わたしは自分がイヤになる。……いっそのこと、消えてしまいたいと思う。
「代わってあげる」
「私」は無表情でそう言った。
「わたし」はただ驚くことしかできない。
「キライなんでしょ? 自分のこと」
わたしと瓜二つの私は心でも読んだのかというくらい的確にわたしの気持ちを代弁していく。
「ずっと、周りの目を気にして疲れてたじゃない。オドオドビクビクし続けて」
「……」
そう。私の言う通り。
「クラスにたまにいる、ひとりでも平気な子を」
そう。私はずっと彼女のことを。
「憧れの目で見てたじゃない」
そう。直接話したことは一度もなかったけれど。
「あんな風になりたい……って」
そう。わたしはずっと、羨ましいって、憧れるって、そう思っていた。言葉には出さなかったけど。
「何があっても自分を貫く。人にどう思われるか気にならない。確固たる自分がある。そんな強さに、図太さに惹かれていたじゃない」
本当にその通りだ。
たとえ人に自分勝手と言われようが、空気が読めないと言われようが、常にマイペースを貫けるようなそんな人に憧れていた。
あんな風になりたいとずっと願っていたんだ。
「だから」
私はわたしに言った。
「私がかわってあげる」
どこからどう見ても、私はわたしそのものだ。
ただしその無表情な顔だけはわたしとは違っていた。まるでわたしがこうありたいと思うような、わたしの理想の「私」だった。
「そうすれば全部上手くいく。つらくなくなる。なにより」
私はわたしに手を差し伸べる。
「これ以上、家族を悲しませずに済む」
「!」
わたしが一番気にしていたことを私は容赦なしに口にした。
「大好きな家族に迷惑をかけずに済む。できない自分を好きになれないのがすべての原因でしょ」
図星を指されても一言も反論できない。
自分自身に対してすら何も言い返せない。わたしはこんな自分の弱さが嫌いだ。
「だから反転しよう」
苛立ったように私は言う。
わたしは自分自身すらも苛立たせる。本当に……わたしはどうしようもない。
「これ以上迷惑かけないように。大切な人を悲しませないように」
手を握り締める。これだけがせめてもの抵抗という事実そのものがわたしを絶望させるのには十分すぎた。
……そうだよ。
あんなにわたしを想ってくれるのに、いつになってもわたしはうじうじして。
ごめんなさい……。
涙がこぼれた。
「うん……反転しよう」
こうしてわたしは、私と反転した。
世界で一番大嫌いだったわたしは、私によって奥深くに封じられた。
ずっと、ずっと奥深く、私の内面の奥底に。
私に思い出されることもないまま眠り続けていた。きっともう、誰もわたしのことなんて気に留めたりしない。
そう思っていたのに。
「……あれ?」
遠くから聞こえてくる歯車の音で目が覚めた。
ゆっくりと起き上がると、かすかに私の気配を感じた。私が言っていた通りにわたしが思い描いていた「理想の私」がそこにはいた。
マイペースで人の目なんか気にしない、そんな図太い強い私が。
「これでよかったんだ」
少し寂しいと思いながらも安心していた。
わたしと違って図太くてマイペースな私は問題なく日常生活を送り、周囲を失望させることもなかった。
そんな私の気持ちが揺らぎ始めたのは高校に入学してしばらくしてから。
何かに呼ばれるように聖ルイス女学院に通い始めてから、もっと言えば生徒会に入ってから。
そして再び大きな変化があったのは、美妃さんに願い事が叶うという話を聞いてからだった。
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