モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
エピソード:51
「悪気はなかったのよ」
疲れた。
本当に疲れた。
初日は小学生になったとはいえまだまだ園児気分の抜けない子どもの相手をしなきゃならない。これだけで十分最初が肝心だというプレッシャーも大きいのに、今年はしょっぱなから面倒なことになった。
私の受け持つことになったクラスの生徒がちょっとしたからかいで泣き出してしまったのだ。まだまだ分別のつかない子どもの言うことなんだから。ただふざけただけで本当に悪気はなかったのだろう。世の中に出ればこんなことなんて山ほどある。
なのに揶揄われた真白雪子という生徒はずっと泣き続けている。初日ということで生徒は早めに下校する日で助かった。
だがずっと泣き続ける真白さんをそのまま帰すわけにもいかず、放課後の職員室で彼女のフォローをする羽目になった。
今日は早く帰ってゆっくり動画を見ながらのんびりする予定だったのに台無しだ。
「わざとじゃないの。あなたをいじめたわけじゃないの。だから」
子どもというのは単純なもの。
相手に悪気がなかったのだと大人から説明されれば、きっと素直に信じて数日後には忘れているだろう。
「だから、ゆるしてあげて?」
私の言葉に真白さんは反応した。
よかった。これですんなり話は終わるだろう。
「わたしぜんぜんきにしてない」
しばらく黙り込んでいたが、真白さんは微笑んで見せた。それほど大泣きするほどのことではないのだとやっと理解したのだ。
「そう!」
私はホッとした。これで余計な仕事はなくなったのだろう。
今後も似たようなことが起こらないとも限らないし、私は言葉を続ける。
「みんなはしゃぎ過ぎただけなのよ。気にすることないわ」
せっかく子どもたちが楽しそうにしている中で泣き出して空気を乱されると私が一番困る。
「えらいわ真白さん」
突然泣き出すのは迷惑なことで、ちゃんと我慢ができるのがいい子なんだとしっかり教えておこう。
真白さんは納得したように職員室を出て行った。
「……はぁ」
しかし、今はこれでいいにしても、必要以上に繊細な子がいるとやりづらい。これから二年間もあの子を含むクラスの担当をするのか。
「きっついな」
つい重苦しいため息が漏れていた。
大体、私は別に子どもが好きなわけじゃない。ただ現代は不景気が続いて先行きも不安だから、だから安定した公務員を目指しただけ。お堅い公務員でも小学生相手なら比較的楽なんじゃないかって思って小学校の教師を志望しただけだった。中学生以上になると部活のせいで業務も増えると聞いていてゾッとしたから。私は少しでも負担が少なく安定した職を目指しただけだったのに。
そんな私の不安とは裏腹に、真白さんはできるだけ泣くのを我慢するようになったようだ。
よかった。ことあるごとに泣かれると私も困る。泣いている生徒を放置して授業を続けるわけにもいかないし、最悪他の保護者からのクレームもありうる。
ちゃんと私の言ったことを理解してくれたのだ。困った子だけど、きっと根はいい子なんだろう。
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