モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
サイドストーリー50
家から出たとき、ちょうど雪子ちゃんの顔が目に入った。
「雪子ちゃん」
ほんと、ナイスタイミング。
なにせ私は、ちょうど雪子ちゃんの家に行くところだったのだから。といっても向かいだから行くという言葉自体大げさなんだけど。
いつもあまり話さなかった雪子ちゃんとお喋りできるかと思いきや、雪子ちゃんは怯んだように身体を震わせて一緒にいた男の子の陰に隠れてしまった。
「こんにちは」
視線を移すとそこにいたのは浩君。雪子ちゃんのお兄ちゃんだ。
浩君は私に挨拶した後、何事か雪子ちゃんに説明したようだ。
「あら、浩君もいたのね」
別に困る話をしていたわけでもないだろうし、私は気づいていない風に話を続ける。
「どうかしたんですか?」
「大福沢山いただいてね。食べきれないからおつそわけ」
浩君と向かい合って話しつつ、視線は雪子ちゃんの方に向かう。真白さんご一家とはそれなりに長い付き合いではあるものの、雪子ちゃんのことだけは未だによくわからない。
「ありがとうございます」
浩君はこんなにしっかり挨拶もお礼も言える子なのに。ご両親もとってもいい人で、特に奥さんの方はいつ会ってもニコニコしてこっちまで明るくなる陽気な人なのに。ご主人は奥さんに比べれば確かに愛想がない部類ではあるけどはっきり不愛想というほどでもない社交的な人だ。なのになんで雪子ちゃんだけ、こんなに引っ込み思案で未だに近所のおばちゃんにすら慣れないのだろう。
などという気持ちは置いといて。
「仲良く分けるのよ」
私はこれだけ言って真白兄妹と離れた。真白さんちはすぐ傍だし何も問題はないだろう。
離れた場所から振り返ってみると、雪子ちゃんが浩君に何やら耳打ちをしていた。
あのおとなしい子が悪口なんて言わないだろう。きっと今のやり取りに思うところがあったんだ。
しかし。
それでも雪子ちゃんの行動にはどこかモヤモヤしたものと、若干のもどかしさ――苛立ちを感じてしまった。
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