モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

サイドストーリー48

 カリカリカリ――
 いつもの歯車の廻る音にあたしは目を開けた。
 珍しいじゃん。
 この4人が集合なんて。あたしらは方向性の違う面倒な子、ばかりだから下手に集まると揉めるのは目に見えている。相性の悪い相手はこれまで避けてきたのに。
 そんな相性を度外視して集まることにしたのはあいつだろう。
「はじまったね」
 最初に口を開いたのは希幸だった。……やっぱりね。このメンツでまとめ役が務まるのはこいつしかいないし、そんな面倒くさいことを買って出るのもこいつしかいない。
 良くも悪くも委員長。
 あたしは基本他の子が嫌いなわけで、特にこの手の恵まれていて堂々とした奴が特に大嫌いだ。とはいえ、他の2人よりはまだマシだとは思っている。立花はノリがウザいがまだ許容範囲。ただし雪子は知れば知るほど癇に障る。あたしがこの世で最も嫌いな人種だから。
「人間そう簡単に変わらないんだから」
 あたしがそんなことを考えているうちに3人は話を進めているようだ。
 でもまあ、元々あたしは会話に加わりたいとは思っていないので別のことを考えた。
 あの先輩、あの女。
『約束』
 ずっと見てきたけど、あの女のことはさっぱりわからない。約束がどうとか言っていたが、当然あたしにその約束とやらがなんのことなのかわかるはずもない。
 何が目的なんだ?
 なぜあたしに関わる。
 あいつにとってあたしはなんなんだ?
 約束ってなに?
 敵なの? 味方なの?
 考えれば考えるほどわけが分からなくなっていく。たった数か月程度の付き合い、わかろう、なんて土台無理な話なのかもしれない。
 けれどもなぜかあたしはあの先輩に何かを期待していた。もしかしたらあたしのことを理解して受け入れてくれるかもしれない。あたしを支えて助けてくれるかもしれない。
 この人なら信用してもいいのかもしれない。
「ミサキ」
 そんなことを考えていたあたしの元に立花が顔を出した。
「むずかしー顔してないでこっちおいでよ。キライなんでしょ、ぼっち」
 あたしの返事を待つことなく、立花は強引に腕を引いていく。
「あんたって見るからに陰キャなんだもん。誘ってあげる」
 誘いは好意からなんだろうが、立花はなかなか無神経なところがある。あたしは慣れたものだから別に気にしていないが。
「ちょっと」
 ほら。うるさいのが来た。
「ひとりをぼっちって言わないの! それぞれ事情があるでしょ」
「どんないい方しようが、ぼっちはぼっちでしょ」
 あたしも特に気にしてない。
 なのに希幸は教室にいるかのようなお説教を繰り出す。
「あんたには言われる方の気持ちなんてわからないんでしょうね。幼稚園の頃に教わったでしょ。自分がされて嫌なことはしないって」
 本人が気にしていないことはこの手の奴の耳には入らないんだろう。委員長気質はこういうところがほんとにめんどくさい。
「あたしぼっちだったことないからわかんない」
 適当に聞き流していたらあたしより遥かに陰気な顔が目に入った。
「そーゆー希幸はぼっち経験者? かわいそうだったね」
「ちがうわよ!」
「じゃあただの言葉狩りじゃん」
 漫才みたいな希幸と立花のやり取りを尻目に、あたしは
アイツに近づいていく。
「ここにはぼっち経験者がいるんだから。言わないようにしようってこと」
 この場所ですら膝を抱えて小さくなって、下を向いてる。見ているだけでイライラした。
「あー……ひさしぶり……でもないか」
 理由はわからないけどピリついてたまらなかった。
「相変わらずイラつくカオしてんね」
「え……?」
 雪子はあたしの言葉におびえたように身体を震わせた。
 その反応があたしの苛立ちを加速させる。
「そーゆー奴って自分ではなんにもできなくて、うじうじメソメソしてて。困ったときは周りに泣きついて全部人に何とかしてもらうんでしょ。自分でどうにかしようとすらしないし」
 一度喋り出したら止まらない。
「相手の迷惑なんてしったことじゃないんでしょ」
 あたしの脳内には具体的な誰かが浮かんでいた。
 雪子とあの人がダブって見える。
「いいご身分だね」
 そのせいもあって、あたしの言葉は止まらない。
「人生ちょーeasyモードじゃん。うらやましー」
 雪子の目に涙がにじんだけど、あたしはとまらない。
「アンタみたいな奴が一番イラつく」
「ちょっと! 何してるのよ!」
 これからが本番というところでストップがかかる。ちっ。
「やめなさい! なんであなたはいちいち棘のある言い方しかできないの?」
 そういう希幸はどこかあの子に似ていた。あたしが憎んでたあの子に。こういう「いかにも正しいこと」を振りかざしてくるところなんてそっくり。
「だってイラつくんだもん。なんかお母さんみたいで」
 あの子に似た希幸にあたしの本音を吐きだしたら、一体どんな反応をするんだろう。
 そんな期待からあたしは続ける。
「だいたいさ、コイツの悩みって自分自身が原因なんでしょ。あたしみたいに親がアレなわけじゃないんだし。自分に原因があるなら自分の頑張りで解決できるじゃん。あたしは必死に努力して持ち直したってのに。自分次第でいくらでも変えられるのに頑張らないのは、ただの甘えでしょ」
 自分でも驚くほど一方的に喋った。
「あたしはあんな親で苦しんできて、それでも頑張ってきて。未だに苦しいのに。何もしてないあんたはずっと大事にされて。いーなー、すっごくうらやましー」
 まだ言いたいことは山ほどあるのに、雪子は耐えきれず泣きだした。ああもう、うっとおし。大事にされた傷つきやすい奴はこれだから。
「ちょっと……」
「その辺にしときなって」
 希幸とほぼ同時に立花が宥めるように言った。
「弱虫毛虫なんだから仕方ないじゃん。その辺にしときな」
 フォローなのか悪口なのか一瞬判断がつかなかったが、どうやらフォローだったらしい。
「けむ……っ!」
「ちょっと!」
 ショックを受ける雪子と更に怒る希幸。なんかどこかでこういう組み合わせを見たことがある気がする。
「言い方! 言葉に気をつけなさい」
「きさぁ~」
 希幸みたいな子は大人受けがいいのだろう。
 なにせこの手の自治をを進んで引き受ける子がいれば教師だって楽だろうしな。
 その希幸は今度は立花に矛先が向かったらしく、今度は2人の口論が始まる。
「――」
「――」
 しばらくなにやら言い争っていたようだけど、これに関してはあたしは無関係なので聞いてすらいない。希幸がムカついてることだけはわかったけど。
「ちゃんとしなさいよ! ちゃんと!」
 とうとう希幸が切れだし、ヒステリックに喚きだす。
「自分自身に関することでしょ! あんたみたいな人がいるから」
 言われているらしい立花は大あくびでたぶん聞いてない。
「みんな堕落していくのよ」
 あたしもつい「めんど」と口に出してしまった。
 結局あたしがちょっと聞きたかったことに関しては希幸は何も言わない。ならここに居る理由もない。
 あたしは黙って自分のいる場所に戻ることにする。
 本当は希幸が言うことに少し期待していただけに残念ではあった。そういえばあの子ともまともに会話すらしていなかったっけ。
 なぜか急にリリカの優等生面が脳裏に浮かんで、なんとも言えない気持ちになった。
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