モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー
サイドストーリー41
結局、あたしは何が欲しかったんだろう。
「私」からも拒絶されたあたしもまた、「私」と同じことを思っていた。
欲しかったものは、望んだものは、何?
ずっと花壇に咲く花を羨んで妬んでた。そこへ行くことができない自分の境遇を呪っていた。どうにもならない現実に苛立ち、不満を抱えながらも、それでもお母さんに縋りついてた。
大キライ。
心の奥底では、あたしは自分の本当の気持ちなんてとっくにわかってたのに。
なのになんで、あたしはずっとお母さんにぶつかれなかったんだろう。
気に喰わないなら徹底的にやり合えばよかったのに。思う存分正面からぶつかり合って分かり合う努力をすればよかったのに。
世間では親と対立しても乗り越えて、そうして大人になっていくものだなどという。それができないのは逃げでしかないと。戦いもしないくせに責任転嫁するなって偉い大人は言う。
じゃあ、あたしもそうすればよかったのか。
今振り返ってみてもそれは難しいと思う。
あたしの気持ち以前に、あたしのお母さんはフツーの人が想像する「フツーのお母さん」とは違うから。
フツーのお母さんはワガママばかり言わないし、常識もあって、やらなきゃならないこととやってはならないことは理解している。ムカついたからって子供に八つ当たりしないし、夜に子供を家から追い出したり、食費を渡さないなんてこともしない。
フツーのお母さんは子供に家事を押し付けて遊びに行ったりしない。掃除も洗濯も自分でできる。小学生の子供一人残して夜通しオールなんかしない。学校のことも子供にすべて自分でやらせたりしない。
フツーのお母さんはできて当たり前のことができないお母さんなんだよ、あたしのお母さんは。
フツーじゃないお母さんにフツーの対応なんてできやしない。
フツーに正面からぶつかろうとしたら、すぐ訳の分からない理屈でブチ切れて数時間グダグダ喚き散らすんだから。フツーの人はフツーじゃない人がいかに厄介かわかってない。数秒前に言ったことをすぐにひっくり返すなんてザラだ。文字通り話にならない。正面からぶつかる以前の話だ。まともに話を聞くだけで非常識が刷り込まれる。
そのくせ世間のフツーの人はあたしにはフツーの振る舞いを強要する。無理言うなよ。
あたしだってできれば「フツー」が良かった。
でも、フツーになれないんだよ。どんなにフツーで平凡で、何の変哲もないありふれた家族になりたいと思っていてもなれないんだよ。
パワハラとモラハラは悪だと世間は理解しているのに、なぜ親からパワハラとモラハラを日常的に受けている子供に更に追い打ちかけるようなことばかり言うんだよ。大人でも辛いことをこっちは子供なのに毎日朝から晩まで続くんだよ。逃げ場がないんだよ。でも大人は「親の言うことは聞きなさい」じゃないか。間違ったことしか言わない親の言うことでも「親の言うことは聞きなさい」とでも言うのか。素直に親の言うとおりにしたら「どんな育て方してるのか」なんて言われる。どうしろっていうんだ。どう転んでも詰んでるじゃん。史上最悪のクソゲーだ。
だからすごく苦しかった。辛かった。お母さんなんて大嫌いだった。
だけどそれと同時に好きな時もあった。
嫌いなのに、なのに、たまに優しいこともあった。誕生日やクリスマスには欲しかったゲームを買ってくれた。たとえそれがゲーム買っておけば放置しておいても文句を言わないという理由だったとしても。それでも、お母さんを優しいと思ったのは本当だから。
あたしはお母さんのことが大嫌いだけど、好きだという気持ちも確かにあったんだ。
嫌いと好きの板挟みだから苦しいんだ。
結局、あたしは何が欲しかったんだろう。どうすればあたしは満足なんだろう。
あたしも「私」も、未だにその答えは見つからない。望みがなくならない以前に、望みがわからない。自分の欲しいものがなんなのかすらわからないんだ。
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