モノクロガールズカレイドスコープ ⚙ サイドストーリー

エピソード37

「よし。じゃあ残りの作業やっつけちゃおうか」
「そうね」
 立花サマと真白先輩は休憩タイムからいつもの表情に戻った。
 大分片付いたとはいえ、まだやらなきゃならないことは残っている。主に書類処理。やたらこの手の仕事が多いのよね、うちの生徒会って。
 生徒が夏休みに集中してこなさなければならないっていうのも珍しいんじゃないのかしら。
「立花サマ」
「ん?」
 書類を手にした立花サマはちらりとわたしの方を見る。
「生徒会ってどこもこんなものなんですか? ほら、主に学校行事の実行委員とか年度末の会計とか。そのくらい仕事だとばかり思ってたんですけど」
「ああ、まあ、たしかにね」
 苦笑して立花サマはわたしの質問への答えを考え始めたらしい。
 ちなみに真白先輩は集中して会計の仕事に取り掛かっているので邪魔はしないようにしておく。
「あたしも生徒会役員やるのは初めてだからさ。他の学校はどうなっているのかはわからないんだけど……」
 わたしも初めてだ。
 というより、わたしも立花サマも中等部からこの学校だったし、もし立花サマが中等部でも生徒会所属だったなら知らないはずがない。
「たしか前にミサキちゃんにも軽く説明したんだけど、うちの学校って生徒の自治で成り立ってるんだよね」
「わたくしが生徒会に入ったときも言ってましたね」
「あたしもチョコから聞いたんだよ。私立の女子校の割にうちは寛容だから制服の着こなしについては細かく言わないし、意味のない校則は生徒側の意見を聞き入れて改善していくっていう方針だし」
「でしたね。現に立花サマもリボンなしでベストでも注意されないですし。スカートの長さも極度に改造しなければ不問ですしね」
「そう」
 ミサキちゃんと会長は平均よりかなり長めだけど本人たちの希望なんだろうな。わたしは長くする気もないけど短くする気もないからあまり気にしていなかったけど。
「考えてみたらかなり自由ですよね、うちの学校って」
 他の学校はどうだか知らないけど。
 たまにブラック校則の噂を聞くたびに「そんなのある?」って思うもの。この学校選んでよかった。
「ただし」
 立花サマが書類で風を送りながら短く言う。
「自由な代わりに、学校のことは基本生徒たちで決めなきゃならないんだよね」
「なるほど」
「他の学校では大人が決めるようなことも生徒たちの意見を極力反映する。その代わり、生徒ができる範囲のことは生徒たちが自力で。そういうこと。もちろん生徒の手に余ることは先生方が助けてくれるけどね」
「自由や権利と引き換えに義務があるってことですね」
 この大量の生徒会の仕事はそういうことか。無条件で自由はあげないっていう。世間って厳しいね。
「でもなぜ、生徒会に一任なんですか?」
「う~ん……やっぱり生徒の代表っていう扱いだから、かな? 全員で分担してやってたら逆に統制とれないしね」
 それでわたくしたちは夏休みも学校に来て仕事を片付けているというわけですか。
 まあ、わたしは夏休みにも立花サマに会えるからいいけども。
「なかなか厳しいですわね……」
「でも、誰かからいい噂も聞いたことあるんだよね」
 立花サマはポツリと言った。
 誰か、と具体的に誰から聞いたのか言わないのは珍しい。
「いい噂?」
 第一、わたしはこれでも校内の情報はかなり知っている方だと思う。そのわたしが知らない噂とはなんだろう。
「生徒会役員には秘密の特典があるとかなんとか」
「特典?」
 完全に今初めて聞いた。完璧なる初耳。
 だいたいそんな話、少なくとも生徒会の誰からも聞いたことがない。
「誰だったかなぁ……たぶん校内のどこかで聞いたとは思うんだけど……」
 立花サマ自身も本気で不思議そうに首を傾げている。情報源を覚えていないって、そんなことはあるのだろうか。
「内申点とかですか?」
「それとは違うみたい。もっと……別のものらしいよ」
「なんなんでしょうね」
 ただの雑談のネタにしては大分真面目な話になってしまっていた。しかも「いいこと」なんていうあるのかないのか不確かな話だ。
「けど、何かいいことがあるといいよね」
 まとめるように立花サマはそう言って書類のチェックに戻った。副会長だから大事な仕事が多いのだろう。量もかなりのものだから、ミサキちゃんが優先順に整理してくれただけでも相当助かっているはずだ。
 わたしも真面目に自分の仕事に戻らなきゃ。
「……いいこと、か」
 本当に何かいいことがあれば嬉しいけどね。
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